第4回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成22年9月16日

 


生涯現役のおもしろ健康学



京都大学大学院 人間・環境学研究科教授
森谷 敏夫 氏

講演要旨

「生涯現役、死ぬまで元気」を実現するためのノウハウを楽しく解説します。



はじめに
 私の父親は脳卒中で、母親は心筋梗塞でポックリ亡くなりました。家族にあまり世話にならないで、言葉は悪いが幸せな死に方だったと思います。
 これから寝たきりにならないで、元気に長生きできる方法、生涯現役で過ごせる方法をお教えします。皆さんで実行できることを続けていって下さい。
 太るのはなぜ悪いのでしょうか。二人に一人はメタボと言われていますが、どうしたら太らないのでしょうか。人生80年として、人間の生涯は約70万時間の持ち時間があります。そのうち、30万時間は寝る、食事、トイレなど必要時間と言えます。2万時間は勉強、学校など教育に使います。また、20歳から60歳まで40年間働いたとして10万時間働いていたことになります。
 一方、定年後を60歳から80歳までとして、20年間毎日が日曜日であると考えると、自由時間は10万時間で、現役時代の労働時間と同じだけあることになります。
 元気のうちはいいが、健康を損ない、ベッドで過ごさなければならないとすれば、10万時間はとてつもなく長いものになります。晩年を健康に楽しく、寝たきりにならずに過ごせるように、そのための健康管理の仕方をお教えします。

人の体は動かさないと(きたえないと)退化する
 人間は、エネルギーがないと動くことができません。
 生き物、動物も植物も全部生きています。人間は、その生き物を殺して食べることによって生きているんです。「いただきます」というのは、『食材の命をいただいて』いるという、感謝の気持ちで食べなくてはいけません。
 人間は食物からエネルギーを得ています。食物をエネルギーに変えて、脳や全身に送り込むことによって生きています。エネルギーを作るときに酸素を必要としますが、人間の細胞は、3分間エネルギーを供給されないと死んでしまいます。
 ヒトの細胞  60兆個(エネルギーが供給されないと細胞は死ぬ)
 血管の長さ 10万Km(地球2周半ある。全細胞にエネルギーを配るのにこれだけの長さが必要)
 心臓脈拍数 1日10万回
 血液循環量 1日7,000リットル
 人間は楽をしたがるものです。介護を厚くするとますます状態が悪化します。人の体は、動かさないと(きたえないと)退化します。心臓は筋肉でできているので、体をなまくらにしない努力、習慣をつけることが必要です。

 血液を循環させる心臓の能力は1年に1%ずつ低下していきます。20歳をピークにして、50年後の70歳でその能力は半分になることになります。
 人間はなぜ寝たきりになるのか。寝たきりの人は立てなくなります。
 人間の血は5リットルありますが、5リットルの血液が体を1周するのに1分かかるので、1時間に約300リットル循環します。細胞にエネルギーを送り続けるためには、心臓は1日約7,000リットルの血液を循環させ続けなければならないことになります。最低、生きているだけで頭の上に7トンもの血液を送らないといけません。心臓にとって、横になったままで血液を脳に送るのは楽ですが、立ったままではかなりの負担になります。

 人間は、時速4キロで歩くと、じっとしている時に比べ3倍の血流と酸素が必要になります。普通、心臓は70cc×70回で4,900ccの血液を動かしますが、小さい心臓では60ccしか動かせないとすると80回の心拍が必要となり、パクパクしないと血液が足りなくなります。逆にたとえば、高橋尚子は心拍32回で1心拍あたり、普通の人の2倍の血流があります。だから時速20キロくらいで42キロを走ることが出来るんです。
 心臓を強くするには、筋肉をリズミックに動かすことです。ダラダラ歩きはだめ、役に立ちません。心臓の筋肉を鍛えることです。
 運動は何でもよく、リズミックに体を動かせばいいんです。歩くときはグイグイ歩くことです。人間の体は慣れていくものです。ただし、急激な運動はかえって体を痛める危険性があります。森光子さんがスクワットを150回やっているといっても、いきなり始めたわけではありません。いきなり始めるのは非常に危険で、関節や靭帯を痛めるだけです。
 スクワットのやり方をお教えします。肩幅に脚を広げ、中腰で膝は90度以上曲げないで、息は吐きながら行ってください。始めるときは、急に毎日何回もするのではなく、1日目は1回だけにする。2日目は2回、3日目は3回と1日に付き1回ずつ増やしていけば、2ヵ月で60回になります。そうすれば、無理なく体が慣れてくるので危険性が少なく、筋肉が強く大きくなります。
 NASAが20歳の軍人宇宙飛行士に行った実験では、無重力が2週間続くと20年分の骨、筋肉がなくなってしまい、骨粗鬆症になってしまいました。無重力の世界では1日で1年分のカルシウムが無くなっていきます。普通の生活で1年で1%ずつ機能が退化するところ、寝たきりの状態になると、3週間で30%退化します。つまり30年分歳をとるということです。70歳の人が入院すると、3週間で100歳の体力に落ちてしまいます。
 アメリカでは出産入院は3日以内と法律で定められています。手術をしても翌日には起き上がり運動を始めていくことが大事だと思います。人間の体は使わないと、心臓、筋肉などすべての機能が退化してしまいます。

 肥満、糖尿、高脂血(脂質異常)、高血圧は「死の四重奏」
 アメリカでは、60%の人が肥満、過体重になっています。太りすぎは、症がつくように肥満症という病気です。肥満の指標としてBM I がありますが、BM I22が標準とされています。BM I は体重(㎏)÷身長(m)の2乗で表します。現在のメタボ基準は、男性はBM I 25以上、へそ腹囲85㎝以上。女性はBM I 25以上、へそ腹囲90㎝以上となっていますが、へそ腹囲には異論があり、将来、男85、女80に改訂されるだろうと思います。

 高血圧も遺伝子が影響します。内臓脂肪が増えると、炎症を起こします。炎症を起こすと、糖尿、高脂血、高血圧の遺伝子が作られます。肥満の人は、すでに遺伝子のスイッチが入った状態にあり、将来必ず発症することになります。肥満、糖尿、高脂血(脂質異常)、高血圧は「死の四重奏」であり将来、厳しい現実が待っていますが、これにタバコが加わると危険性が30倍に上昇します。九州大学では、65歳の人850人に生活、食事など追跡調査し、死亡すれば解剖して調べるという条件で実験を行いました。その結果、65歳で糖尿病を持っていた人の18年後、認知症は46倍、がんは3倍の高い確率で発症しました。
 日本人は脂肪の取りすぎです。現在の日本人の食事量は、昭和50年頃をピークに、昭和21年頃の終戦時とほぼ同じ量まで減ってきています。食事量は減っているのに肥満が増えています。これは体を動かさなくなってきたからで、いわば食べ過ぎと同じ状態にあるといえます。つまり、量は減っても動かず消費しないから、摂取は少なくて済むということです。日本人はどれだけ体を動かさなくなったのでしょうか。

人はなぜ太るのか?
 人は立っていると、座っている時の1.2倍のエネルギーを使います。日常のエネルギー消費の1/4は、普段の普通の動きで消費します。
 朝起きて寝るまでに、こまめに動くとエネルギーを充分消費する。こまめに動かないから、メタボになるんです。私たちの親の世代は、どれだけ体を動かしていたことか、メタボなんてなかったと思います。
 多くの人が間違っているのは、糖尿病は糖を取り過ぎるからだと思っていることです。決してそうではありません。日本では、1億2千万人中890万人が糖尿病にかかっています。潜在を入れると1,200万人に上ります。
 昨年、中国で調査したところ、経済の高度成長で肥満、糖尿の人が増えており、他の先進諸国と同様に1割が近い将来に糖尿病になると、13億人中1億3,000万人で日本の全人口と同数の糖尿病患者がいることになります。

 糖質の米を取り過ぎると、糖尿になるか、なりません。
 親や私たちの若いころは米をしっかり食べていました。ブドウ糖だけが脳のエネルギーになります。糖類を取らないと、脳は満腹になったとは感じません。食事をするとき、酒のアテに脂肪分を含むものを充分とっても、頭は満腹感を得られません。得られないから脂肪分などをまた取り過ぎることになります。本当は、先にご飯など糖質を取っておけば、脂肪分などの摂取が少なくて済みます。こういう食べ方に替えていくことをお勧めします。
 多めに摂取したエネルギーは消費されるか実験をしました。この実験は、1999年からラットではなく人間で実験できるようになりました。
 多めに摂ったタンパクは全部燃焼
 多めに摂った糖質も全部燃焼
 多めに摂った脂肪だけは一部燃焼、残りは体に蓄積

という結果になりました。インシュリンは余ったエネルギーを全部脂肪に替えていきます。
 かつて、糖尿病という病気はなかったので、今の診断基準は昭和30年になって決められました。糖尿病患者は平成15年度で740万人、これは昭和30年に比べて31倍になっています。

 筋肉は糖の70%を消費しますが、歳とともに次第に使わなくなっていきます。筋肉を使わないと、糖は消費出来ずに体に蓄積します。本来、筋肉は使うためにあるのに、我々は筋肉の動きを機械に替えさせてしまいました。だから、アフリカなどの原始種族には糖尿病はありません。
 糖は脳の唯一のエネルギー源であり、糖尿病は筋肉の代謝疾患(運動不足)であります。昔ながらの、体を自然に充分動かす生活をすれば、インシュリンがいらなくなり糖尿病を防ぐことができます。食という字は「人を良くする」(人+良)と書きます。いただいている食材の命に感謝して欲しいと思います。
  

舞台を縦横に動かれたダイナミックな講演でした



平成22年9月 講演の舞台活花



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