第3回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成22年7月15日
どう生きる?これからの日本
課題と解決への提案(提言)




帝塚山大学法学部教授
坂野 勝彦 氏

講演要旨

かつては経済一流、政治は?流と揶揄されながらも今なお世界で平和な国として上位にある我が日本。
押しよせる世界同時不況の中、新政権の下、これからの日本はどこへ行くのか、20余年の海外駐在生活の体験エピソードを紹介し、ご一緒に考えませんか。

 

自己紹介
 1965年大阪外国語大学卒業後 商社に入社し、1969年からウイーン、ロンドン、北京と延べ24年間海外駐在をして来ました。その経験をまじえながら話を進めて行きたいと思います。
1997年からは帝塚山大学法政策学部で現在(本年4月より法学部)まで14年間勤めております。帝塚山大学は現在600名程の海外留学生を受け入れている国際色豊かな大学です。

1)雇用問題
 今年の4月時点で、新卒者のうち約10万人が就職できない状態にあります。過去にも2001年から2002年ごろに就職氷河期がありましたが、今年は特に厳しく、各種団体(NPOやNGOなど)がボランティアで活動し、就職の世話をしています。
 これは丁度1970年代の英国を見ているように思います。当時は、労働党党首のキャラハン氏が政権を執っていた。労組が強く毎日のようにストライキをし、国営企業は衰退し、学生達が就職できない時期でした。私のロンドン勤務時代でして、電力消費量を規制されて、消灯や、暖房を止められ寒さで震えながら仕事をした経験があります。また、ゴミ収集が来なくてロンドンの街は非常に汚れていました。
 英国サッチャー首相の改革 サッチャー氏は政権につくといち早く国営企業はどうぞ潰れて下さいなどと大胆に改革を進めた。この時期英国では日本車がよく売れており、BBCの調査では、燃費がよく、故障しない、価格がリーズナブルで、販売車種の上位5位まで、日本車が占めていた。
また、教育制度についても、元々日本は英国の教育制度を採り入れたが今は逆転しているとのことで、日本の教育制度を徹底的に調べて、採り入れた。
また、トヨタ自動車を英国に引き入れたいと、国がらみのワーキンググループが中心に検討していた。その後幾度か政権交代があり、本年は保守党と他党との連立政権が始まりました。
企業理念について、以前の雇用と現在
 私達の現役時代は、学校での勉強よりも、会社での教育や先輩たちの教育が自分を育ててくれた、という思いがあります。今頃の企業は、新卒採用時に、会社の利益を優先し、社員を立派な社会人に育てていく責任もあるのだという点では少し認識が希薄になって来ており、企業理念が間違っているのではないかと感じるところがあります。
従来の年功序列や終身雇用制度による愛社精神が、利益優先の中では醸成されないと思います。規制緩和の下に派遣法が改正されて、今の雇用問題を生み出しているのではないか、その為、派遣法の見直しが何度か国会に出されています。
最近、派遣社員による事件が多い。派遣社員では、愛社精神など生れて来ない、派遣法の見直しを急ぐ必要があります。
 竹中理論によると、労働力の柔軟性というか、移動をやり易くする、例えば、A社にいた人が、その人の知識や技能、技術があり、B社が必要としていれば、B社でそのスキルを活かせば良いし、また、優秀な女性もこの時間帯なら働くことが可能であれば、その時間帯だけ働くことが出来る。このように労働力の移動はメリットがあるとのことで派遣法が進められて行った。その結果、給与は正社員の半分程度、その他多くの問題が生じております。

2)国際化・空洞化
 1965年当時の初任給は18,000円《ドル換算(@360円)で$50》、2010年の初任給は180,000円《ドル換算(@90円)では$2,000》。現在の新卒は当時の10倍の給与を貰っていることになる。また、ドルベースで換算して、中国と比較すると、中国は大卒文系の初任給が50ドル程度ですから、日本はその40倍になります。従って、企業は人件費の安い方に流れ、我が国の空洞化は止められない。タイ・ベトナム・インドネシアなど東南アジアの諸国の給与レベルも安い。この地域から日本にどんどん物が輸入されています。
日本の売りアイテムは、相手は?
 ではこの現状をどうやって食い止め、若い人達に何で食って行けと言うのか難しい問題であります。国際化、グローバル化が進んでいる中でこれからの日本は何を作り、何を売り、そして何で貢献するかということを一緒に考えていかねばなりません。
農業問題
 日本の農業に対する長年の農業政策が上手く行っていない。このことは日本だけでなく他の国々も農業問題を抱えている。今日本の食料自給率は40~41パーセントと言われています。小さな田圃を集約して広くするとか、企業化を図るとか工夫することにより、若者も農業に取組める仕組みを作りあげていけばと考えます。既に国の政策として、この方向で検討しているように理解しています。韓国や中国では、農地をアフリカまで押さえに行っていると言われています。日本では休耕地が多く、しかも従事している人はシニアが多い。この問題を解決する為にもシステムの構築が急務と考えます。また、日本のお米が中国や台湾で売れています。食の安全に対する信頼性の点からも今迄とは違った取り組みが必要となって来ています。
技術
 日本には世界でトップレベルにある技術が沢山ありますが、海外への技術移転の割には、その適正なリターンが少ない、技術を盗まれている処が多いのではないでしょうか、最近では各企業とも簡単に工場とか研究室を見学させなくなっています。
かつて日本は経済大国第2位と言われ、経済援助は第1位でしたが、最近では主役が交代してきています。中国を中心とした東南アジアの経済力の増大はスピードがあります。インド・ベトナム・中国など東南アジアの経済成長に歩調を合わせて、日本がどの分野で彼らの成長を支えてやれるのか分析する必要があります。
お芝居では主役だけでなく脇役も子役も必要で、夫々の役割を果たすのも立派な貢献であります。
中国では富裕層が1割に達したと言われています。人口13億として、その1割は1億3千万人ですから日本の総人口を上回ることになります。この富裕層の人達が日本に来て色々な品物を購入して帰っています。日本では中国人の旅行ビザの規制緩和が始まりました。これから中国人の旅行者は増えてくると思います。レジュメに日本の売りアイテムとして、省エネ・平和・心・観光・水・海洋・排出量・農業・林業・漁業、そして市場としてはアジア・南米・アフリカをあげています。

3)地域社会
 コミュニティというか地域の絆が年々弱くなっています。行政も財政難で施策としては対応できない状況にあり、逆に地域の市民や住民に期待するところが多くなりました。職場社会の友達はいるが、地域社会での友達はいないのが現状です。
私のウイーンやロンドン駐在時代の経験では、日本人の私を地域の人間として受け入れてくれ、人々から優しく、親切に接して頂き大変世話になりました。また、助けて頂いた思い出が幾つかあります。プライドのあるあの優しさや親切さは今思い出しても胸にジーンと来るものがあります。今日本では昔からの地域の絆が残っている処と、新しく地域のコミュニテイを作らない処があり、今後のコミュニテイのあり方についての問題点と思われます。

4)成熟社会 先進国とは
 先進国とは一体何でしょうか? 技術が高ければ先進国ですか? 輸出を沢山してお金儲けすることが先進国ですか? 小さな国でも、平和で元気な国の方がいいのかな? 先進国はどうあるべきですか? 今の日本は成熟期に入っている事は間違いない。
今の日本はマスコミの誘導社会になっていませんか? マスコミが誘導し過ぎではないか、国民はそれに騙されていませんか? 事件や社会問題が起きた時は一斉に報道してくれるNHKや民放各社が同じ事を報道していますが一週間も経つと、その後どうなったか全然報道してくれない。言いっ放しできちっとした説明もない。公共の電波を使いながら残念な気が致します。
国会議員についての報道でも白か黒か判らないのに、あたかも疑わしいが如き報道をする。国民の方もこの種の報道を好んでいるとすれば視聴率の関係で益々この傾向が強くなります。もっと観ている人の心を打つような明るい内容の話題提供が望まれます。

5)教育 品位
 自分が育った時代と今の学生の育っている環境は全く違います、私達が習ったことを押し付けても学生達の反応は良くない。しかし日本人の持つ基本的な物の考え方は、それほど変わっていないと思いますし、日本人だけでなく、世界にも通じる日本の文化や伝統は必ずあります。
今は核家族化が進んでいますが昔は大家族で住んでいました。お祖父ちゃんお祖母ちゃんが親に代わって何かと面倒を看てくれていました。核家族・小家族になると中々親の目が行き届かない、親が子供に直接注意するのは非常に難しい、以前はお祖父ちゃんお祖母ちゃんが上手に躾けてくれました。
私達の世代も60年70年と生きて来た訳だから、若い人達に伝えることはきちっと伝えなければなりません。我々も少し遠慮しているところがあります。手渡しで伝えるものもありますが、言葉できっちりと伝えなければいけない事もあります。
英国では公平か否かを教えていました。フェアーかアンフェアーが欧米人の判断基準になっています。商売の世界でも公平か否か問題であり、世話になったからお返しになど、との説明では納得しない。彼等の考え方はフェアーかアンフェアーかの文化があります。
英国の教育は男の子には忍耐、女の子は愛を教えていたように思います。品位をもう一度考えてみると、恥を知ると言うのが日本の長い伝統文化(華道・茶道・武士道)にあり、我々はそういうことをベースに学び育ってきました。この中に流れている日本人独特の感覚は世界に通じるものがあります。
英国も島国で日本に似ているところがあり、日本人が教えたのではと思うほど日本人以上にイギリス人もよく根回しをしますし、きめ細かく人の考え方を引き出していく手法など、通じるものがあります。
アメリカは、ここ20~30年間は独り勝ちで、確かに魅力ある国です。しかし世界でベストの文化であるとは思えません。この文化に抗して9・11事件が起きた。経済市場主義にも規制とセイフティネットが必要です。リーマンショックなど金融危機の事件が象徴しています。
日本の派遣法などにも矛盾が生じています。よく解った上で、アメリカの良いところは学び取捨選択して対応すべきと思います。
一兆円というお金はどんなものか
皆さん想像が付きますか?毎日100万円使うとして、2,800年位かかります。国の借金が630兆円あると言われますし、予算についても国債を発行していますが、簡単に1兆円2兆円と言うが大変なお金であります。
物事を決めるのに出来れば性善説でいきたい
第一次オイルショックの時にオーストリアは近隣の国々とは違って一般車の規制をしていなかった。ウイーンにオペックの事務所があるので、安心していたのではないか、市民の声から、ウイーン市役所は1週間に一日だけ車に乗らない日を作れと言う簡単な条例であった。ズルする人がいるのではないかとの質問に対し、ウイーン市民にはズルする人はいないとの答えであった。




平成22年7月 講演の舞台活花



活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
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「講演舞台活花写真画廊」のブログも
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