平成16年度
熟年大学
第7回

一般教養公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成16年12月16日


 
日本文化の源流を探る
−日本民族はどこから来たか−

講師
桃山学院大学
名誉教授
沖浦 和光 氏

「日本文化は、アジア各地から入ってきた複合文化である。」 縄文文化が基層にあるが、コメと鉄を中心に弥生文化は中国・朝鮮から渡来した。 黒潮の流れで入ってきた南方系文化もある。 今日の日本人は、六系列からなる民族の複合体で、単一民族でない。

               講演の要旨


私は狭山の西山台に住んでいるので、この中ではあちこちでお会いしている方もたくさんおられると思う。  狭山に住んでからもう三十年近くになるが、この地にある狭山池は朝鮮からの渡来人がこの池を掘って開拓したのであって、その記録は日本書記にもでている。 河内の錦織氏も朝鮮から渡来した大きな氏族で全国へ広まっています。 平安時代に編纂された「新撰姓氏録」という大和、山城、摂津、河内、和泉の五畿内の1182の豪族の系図があるが、錦織の豪族をみると、先祖は何時ごろ、どこから来たかが載っている。 

                     

朝廷は、1182氏族を、先祖が日本古来の神々と称する神別、天皇系列の子孫である 皇別、渡来系は藩別の三つに分けて、各豪族に由緒書を提出させている。藩別は、 殆ど高句麗、新羅、百済などの渡来人であり、ここら辺の地名、古市や藤井寺や泉北あたりに誰が住んでいたかわかります。 渡来人の系譜が非常に多い。

さてそれでは
● 人類の起源は、アフリカの大地溝帯

約700万年前に類人猿の共通先祖から分かれた[猿人(約500万年前)⇒原人(約170万年前)⇒旧人(約20万年前)⇒新人(人類学では「ヒト」と表記)]。 だが、このような進化と系統的関係には諸説があって、まだ確定していない。

       

● 人類の起源と進化

アジアに住むヒトは、世界のどの人種に属するのか。 ただし皮膚色によってヒトを分類する今日の 「人種」は便宜的な仮説に過ぎない。(混血して区分できない人たちも
多い)
 
   1) ネグロイド(黒色人種)
   2) モンゴロイド(黄色人種)
   3) コーカソイド(白色人種)
   4)オーストラロイド(黄色人種?)
●  アジアに分布するモンゴロイド

   1)ヒトの形質上の特徴(民族的形質)は、自然環境によって差異が生じる。
   2)日本民族は、南方系と北方系が複雑に混交しながら形成された。
   3)東日本にはもともとこの列島にいた縄文系、西日本には朝鮮からの渡来人系      の影響が見られる。
  
       今日のヒトとチンパージー共通先祖から分かれた。
       人類の起源はアフリカの大地溝帯。
       マグマの活動で、平野に出たのが今日の人類の先祖。森に残ったのが
       チンパンジーやゴリラ。 もともとは一緒だった。
● 世界文明の発祥ー世界四大文明(紀元前三、四千年前に成立)

     1)中国文明(長江文明)
     2)インダス河流域のインダス文明
     3)チグリス・ユーフラテス河流域のメソポタミア文明
     4)ナイル河流域のエジプト文明

         
       

● 二万年前の日本列島
            
日本海が湖となっており、大陸とは地続き。 北海道にはシベリアからの流れが入ってきて、北海道の考古学的発掘からは北方大陸系のものがでてくる。  南からも大きな流れ。 南九州にいた隼人族は南方系海洋民が主力。 日本で一番古い人骨は、沖縄の港川。約二万年前の人骨が出ている。中国南部の倭人は、 その一部は朝鮮半島へ渡り、さらに北九州へやってきている。
このような流れのなかで日本人は形成されている。

         
文化に衣食住、宗教、言葉などで強い影響を及した中国大陸では、古代では漢人は北方系、倭人は南方系である。特に倭人文化が西日本に入ってきて、 弥生文化の土台を形成する。今日の日本人も南方系と北方系と大別出来るが、北方系はどちらかと言うと背が高い。日本語も北方系と南方系の合成物であって、 その形成の道筋もまだよく分かっていない。文法は北方系、古くからの単語は南方系が多い。

    西日本人型    東日本人型
    (弥生タイプ)                  (縄文タイプ)

南方系は目玉パッチリ眉毛が濃く顔の彫りが深い。北方はその裏返し。 眼がパッチリだと吹雪で眼がやられる、だから細い。  南方系は身体に有害な紫外線を防ぐために、皮膚の表面にメラニン色素が定着して色が黒くなる。 人間の成り立ちをみても神は実に上手い事をしている。  人間の形は、その住んでいる場所に自然に適応できるようになっている。あまりにも大きくて食糧も限定されていた恐竜は死滅したが、 雑食性で群れで移動しながら生きる人類は生き延びた。ヒトの文明は言葉が発っせられること、 手で道具が使えることが基本。ネアンデルタール人と 今のホモサピエンスの違いは、
言葉の発生、喉仏の位置の違い。 

我々は大自然に眼をむけねばならない。 大自然あっての我々。 人間は尊厳などという人があるが、日・月・星、そして大地と空気、 山・川・海から成り立つ大自然こそが尊厳で、我々はその自然生態系の中で生きる哺乳類の一員にすぎない。 たかが猿、されど猿。今日の理科の教科書では 人間は霊長類でなく、サル目となっている。  

北に追いやられたアイヌも元々は南方系。 南方系の形質を残している沖縄。 北のアイヌ。 真ん中の畿内人は渡来人が主力だった。  このような図式がはっきりしてきた。

                  

● 日本列島の住民は「在来系」と「渡来系」の集団による「二重構造」
    配布レジメ(故埴原和郎説の要旨参考)

人間はDNA因子と環境因子の合成物。 だからどんなヒトでも、その身体の半分近くはDNA因子で決まっている。半分は自然的、社会的因子。  だから文明の壁に守られて、本来の自然に接することが少ない今の子は弱い。 免疫力を強めるためには
ゴキブリが住む環境に育つことが大切。コンクリートジャングルの都市で、冷暖房完備の密室で、雑菌と触れることもなく育っていると、 ヒト本来の野生が失われてしまう。
これが自然生態系の大事さ。 アミニズムの考え方に是非とも同調して欲しい。

● 日本人という概念は成立するのか

「日本人」という規定は、現存する国家が政治的に決めた戸籍概念に過ぎない。 日本国家・日本国民という政治的枠組みでもって、この列島における民族形成史やその文化的民族的特質を論じる事はできない。 すなわち、「日本人」「日本民族」は次元の異なる概念である。前者は政治的規定であり、後者は人類学・民族学による概念である。

                 


12月講演舞台活花