平成14度
熟年大学
第ニ回
一般教養公開講座



於:Sayaka小ホール
平成14年6月20日



 【デフレと私たちの暮らし】

講師
大阪市立学経済学部・大学院研究科
助教授

柴田 淳 








日本の経済は、継続的な物価の下落という先進国でも
あまり例を見ない状況にあります。

このデフレ経済がどのような特徴をもち、
そして私たちの生活にどのような影響を与えるのかにつて
お話します・・・と、
オーバーヘッド・プロジェクターを使いながらのご講演でした。








その概要は

1.日本の物価動向
   デフレ基調の物価変動
   国際的に高い物価水準



2.物価変動のメカニズム
   経済規模と物価との関係 
    (AD-ASアプローチ)
   生産性上昇と物価
   需要変化と物価





3.デフレの影響
   デフレスパイラル
   資産(負債)価格への影響



4.金融政策とその効果
   インフレターゲティング
   量的緩和



5.暮らしと物価
   将来の物価動向
   経済圏と通貨圏


講演の纏めとして、次のようなコメントがありました。

以上日本の物価全体を纏めて考えてみると基本的にはデフレ基調が出ていて、しかもそのデフレ基調とは、諸費者物価が高めにでる状況を考えると実はかなりのデフレ状況が続いてきており、卸売り物価指数を考えると10年以上のデフレが続いておりデフレで物価が高い状況が継続している事になる。

こうしたデフレの状況を考えると、その原因として二点あり、一点は、生産の問題二点目は需要の問題があります。

生産性が上がり、物価が下がり経済規模が大きくなる、或る意味では良いデフレ。

需要が減退して、物価が下がり、その結果として経済規模が小さくなるという悪いデフレ。

この二つの状況が考えられる。 

しかし必ずしも良いデフレが、良いデフレとは限らない。

物価が下がる事により、労働賃金と財サービス価格の調整の価格差によって、企業収益が悪化して、さらに物価が下がるという、物価が下がることによって実質金利が下がって、投資が減退することによって、需要が下がると言うことがある。 即ち物価が下がるということだけで、

需要曲線がどんどん左側にシフトして、所謂悪いデフレが起きる可能性が考えられる。

そうして起きたデフレは、我々の負債の実質的な負担を上げて、不良債権、政府負債、などの負担を上げてくる事がある。

それに対して対抗でき得る対策としては、金融政策を用いてすることになるが、金融政策を用いたとき、インフレターゲティングが有効な政策ではあるが、それは実行性において果たして今の経済状況の下で、銀行は貸し出しを増やして上手くインフレに乗せることができるかと言う事は、

なかなか心もとなく、しかもそれが、人々の期待を非常に正確に形成するレンジに収まる事ができるかという事はなかなか技術的にも難しい状況にあって、そこは非常にテクニカルに議論が進められる必要がある。

高い物価水準と、下がる価格水準と言うのは、ひとつの関係があって、為替レートにその起因を見ることができ、為替レートが過大評価されている事により、我々は日本の高い物価に苦しむ事になる。

円安傾向にそのまま動き、我々の資産が目減りし、或いは実質購買力が下がり、インフレに面する状況になるのかと言うと、必ずしもそうではなくて、

政策的なチョイスによっては、それを回避するそれとは異なった調整をすることが出来る。

我々は選択を強いられる場にあり、このままデフレを続けるのか否か、将来的に円安を容認するのかしないのか、

それぞれにおいてメリット、デメリットを抱えながら進んでいる。

そのメリット・デメリットをよく考えてある意味では痛い選択をしなければならぬというのが我々の状況といった形となるのです。


今回は受講生からの質問が
多数ありましたのでご紹介します。
        柴田氏の応答

質問1

難しい状況でいろいろなケースや考え方をお話頂いたが

先生としては、暮らしを良くするにはいかなるファクターを

重点的に改善したらいいか?

ここ一〜二年の状況で考えてみるとインフレターゲティングを導入することだと考える。

要するに将来物価が下がると皆が予想するだけで実際に下がらないとすると、それを避けるために、或る程度物価を前の段階にまで持って行くことを宣言する必要がある。

それを人々が信ずる事が必要だが、ターゲティングを用いて一〜二年頑張ってみることだろう。

質問2

外国との物価の比較があったが、
日本の物価を形成するなかで、物流コストが非常に高いと言われている。

外国ではその点、日本と比べて比率はいかなる具合か?

物流コストをそのまま比較することは難しい。

日本国内で言うと、例えば食料品の価格の20%弱だろうが、かなりの部分が物流コストと言われている。

日本の物価で食料品が高い点のどこまでを卸しを含めて物流コストに見るかだ。

スーパーに来るトラックの積載率が低いケースもある。 

確かに物流コストが日本の物価に影響を及ぼしている事は事実でここを改善すればかなり変わってくるだろう。

質問3

日本の物価、特に食料品が高いといわれているが私が隣で作っているジャガイモを食べるなら、安いジャガイモが食べられる。

北海道で作ったジャガイモをいろいろな人の手を経て私の所に届くと相当値段が高くなる。

その間に手を入れた人は、それで口糊できる事になる。

そうすると、物流コストの問題は、イコールではないが、ワークシェアリングではないが、それと同じような効果があるのではないか。

従って、一概に物流コストが高いとか言うのは日本に於いては、そう悪いことではないのではないか。

高いコスト構造はといえば、電気の利用については非常にレベルが高い。殆ど停電がない。しかし価格は高い。

しかし皆が高い質のものを欲しがっている訳ではない。安いコストを必要とする人もいるだろう。

高コスト構造の場合、そうでない物の選択ができる構造になっているかというが問題で、

むしろ高コストの問題でなくて、いい物が欲しい、それで皆がいいものを届けて

皆が生活してゆこうという選択と、取り敢えず隣で作ったジャガイモやキュウリで

良いという人の選択が上手くできるかだろう。

そういった選択が少ない構造が問題ではないか?

質問4

国際比較の問題だが、これだけ貨幣が物を離れてマネーゲームの様な世の中になると、マネーが物とリンクしていた時は良かったが、これだけ離れてしまうと、それで意義があるのかという疑問があるが・・

ご指摘のと通りだ。

年間で物凄く為替レートが変わると、どの時点で平均値を取ってどの価格を調べるかと言うことになる。

ただ日本の物価で見てゆくと、90年以降GDP数値で見ると、

2030%高いという状況は継続して続いているって事がある。

確かに為替レートは振れてはいるが、十年継続したら安いとはいえぬだろうと言うレベルの話になる。
しかし継続してみたときどのくらい高いかを調べる必要があろう。






 今回は司会の川口さんの
ご都合がつかず
司会代行は
竹内さんにお願いしました。