第5回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
2025年10月16日
【眼の健康について】

小池眼科院長
小池 英子 氏
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| 講演要旨 私は眼が大好きです。患者さんの命を救うことに携わることはできないのですが、生きていくうえで人やものを見る喜びを維持していくために、少しでも役に立ちたく眼科医として日々を過ごしております。 |
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・眼の役割とは 外界の情報の約90%は眼から入るといわれています。したがって眼は心の窓といえます。また眼は透明な組織であり、全身状態を知るきっかけにもなることから眼は体の窓ともいえます。 ・眼の構造について 眼の構造はよくカメラにたとえられます。まず表面の黒目の部分(角膜)のすぐ後ろに茶色目の部分(虹彩)があり、これは光の量を調節する絞りの役割をします。その後ろには水晶体といわれるピントを合わせるレンズにあたる場所があり、フィルムにあたる網膜にピントを合わせています。外界から入ってきたものは網膜に投影されて視神経を通して脳に伝えられ初めて物を見ることができるのです。 眼底写真に写る中心10度以内は黄斑とよばれ、とても重要です。神経細胞の50%がこの場所に存在しており、脳内の視覚野の半分を占めます。この黄斑は、視力や中心視野にとって非常に重要な場所です。近年よく耳にする加齢黄斑変性も、この部分の疾患です。 さて、日本における中途失明の1位は緑内障、2位は網膜色素変性症、3位が糖尿病網膜症です。 視覚障害手帳交付新規取得者の割合は70歳以上が63%との報告があり、視覚障害の大部分は「高齢者になってから」といえます。その内訳は、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、白内障などがあり、これらの病気は早期発見早期治療により進行を遅らせる可能性のある病気もあるため、日常から眼に関心を持っていただき、視機能を維持していこうという心がけがとても重要です。 平均寿命が100歳といわれる現在、90歳を過ぎてもまだまだお元気で、一人で歩いて診察に来てくださる方が非常に多くなってきています。つまり、従来と同じ治療をしていると中途失明に至ってしまう人を増やしてしまう可能性が出てきますので、新しい治療方針を考えるべき時代になっているのだと日々実感しています。 そこで近年、加齢に伴って眼の脆弱性が増加することに、様々な外的、内的要因が加わることによって視機能が低下した状態、またそのリスクが高い状態をアイフレイルと定義し、広く知って頂こうという考え方が広まってきました。 アイフレイル対策の目標は、眼が原因で日常生活が制限される人、要介護状態に至る人を減らし、読書や運転、スポーツ、趣味など人生の楽しみや快適な日常生活が制限される人を減らすことです。 本日は、日々、身近に感じると思われる眼精疲労、ドライアイ、白内障、緑内障、糖尿病網膜症、そのほかにの疾患についてお話させて頂きます。 2.身近に感じられる眼の疾患 (1)眼精疲労 眼精疲労とは、目を使う仕事を続けることにより、眼の痛み、眼のかすみ、まぶしさ、充血、肩こり、吐き気などの全身症状が出現し、休息や睡眠をとっても十分に回復し得ない状態を言います。 この時、眼はどのように働いているのでしょうか。 一般的に遠くを見るとき、水晶体の周りを取り囲む組織である毛様体筋が弛緩して、そこから連なる細い繊維性の組織である毛様小帯が緊張することによって、水晶体が薄くなります。 近くを見るときは反対に、毛様体筋が収縮して、毛様小帯が緩んで、水晶体は膨らみます。この状態を日常日々、勝手に眼は頑張っておこなっています。しかし、パソコンなど近くのものを見続けると、毛様体筋が緊張した状態が続き、筋肉に負担がかかります。そうすることによって、眼のぼやけ、疲れが引き起こされてきます。 眼精疲労の原因は他にも、屈折によるもの、疾患によるもの、心因性、環境的素因などいろいろなものが考えられます。 ・屈折とは? メガネがなくてよく見える状態を正視といいます。私たちの眼の長さは平均24㎜程度で、正視の場合は網膜にきれいにピントが合ってものが見えます。 近視と遠視というのは正視よりそれぞれ眼の長さが長いか短い状態ですので眼鏡で調節します。一番つらいのは老眼視です。これは、加齢に伴い調節力が減退し、手元にピントが合わない状態を言います。 眼の調節力の単位をジオプター(D)といいますが、10歳くらいの時に14Dくらいあるのが、45歳くらいになると2から4Dに低下してきます。通常の読書の距離30cmくらいでは少なくても3から4Dは必要なので、老眼の状態はもう45歳くらいから発症していると考えられます。当然個人差はあります。 ・屈折に伴う眼精疲労 加齢に伴い、調節力、手元に引き付ける力は年々落ちてきています。屈折がうまく矯正できていない状態や無理に眼鏡なしで見ようとすると眼を凝らしたり、首を前に出したりする姿勢になり、とても疲れます。また、合わない眼鏡をかけていたり、左右の視力差があるのに同じ眼鏡をかけていても眼が疲れます。 ・疾患に伴う眼精疲労 斜視、斜位など眼のずれがある場合、視線を無理に合わせようとするので、やはり眼精疲労の原因となります。また、年齢とともになんとなく目が重たいなあと感じる方の場合、眼瞼下垂といって瞼が下がって来る疾患であることがあります。眼瞼が下がるため上の視野が見えにくくなり、ものを見るときに顎を上げ、頭を後ろにそらせてみようとするので、これもとても疲れます。 まだまだ眼精疲労の原因はたくさんありますが、特効薬はありません。ですので、原因を特定し改善させていくことが必要になります。 例えば、眼鏡をきちっと合わせる、パソコン、スマートホンの時間を30分くらいで休憩する、十分に睡眠をとるなど生活習慣の改善は重要です。そのほか点眼剤やサプリメントで補強するということも最近ではよく行われています。 (2)ドライアイ 患者さんが受診されるときには眼が乾いているというよりも、なんとなく眼に不快感があるとかしんどい、眼がごろごろする、かすんで見えるという訴えが多いです。 私達の眼の表面は涙で十分に潤っています。涙液の働きは、ごみを洗い流す、栄養や酸素を運ぶ、殺菌する、眼の表面を滑らかにするなどです。涙液は、眼瞼の耳側裏側の涙腺から分泌され、瞬きによって涙液層を形成し、眼を潤してくれているのです。その約10%は眼の表面から蒸発しますが、大部分は眼瞼鼻側の孔、涙点というところから鼻の方へ流れていきます。眼の表面に存在する涙液は6μlといわれています。 涙液は油層、液層、膜型ムチン層の3層に分かれます。 涙液中の水分は瞼の奥にある主涙腺、副涙腺から分泌されます。涙液の蒸発を防ぐ油分は、眼瞼の後ろにあるマイボーム腺やツアイス腺から分泌されます。大部分を占める涙液層では水分で角結膜を潤うほかに、病原微生物の侵入を阻止して角膜創傷の治癒を促進します。 一番下の膜型ムチン層では、本来角結膜は疎水性なので、そこになんとか水の成分を乗せようとして角膜表面に水層を保持します。これらの構造のどこに効くかを考えて、ドライアイ治療の点眼を選びます。 ・ドライアイの定義 2006年では、様々な要因による涙液及び、結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴うもので傷があることが定義でしたが、2016年の改定後は、角膜に傷がなくても涙の安定性が低下しているものをドライアイとする考えに変わってきました。 ・検査方法 シルマーテストは専用のろ紙を目尻にはさみ、しみ込む涙の量を測定します(正常は10㎜以上)。 涙液破壊時間(BUT)は、オレンジ色のフルオレセイン染色で、瞬きをしない状態で角膜が露出してくる時間を測ります(正常は10秒以上) 自己診断チェックシートがあるので、チェックしてみてください。 ①目が乾いた感じがする。②目が疲れやすい。③何となく目に不快感がある④光をまぶしく感じやすい。⑤目やにがでる。⑥ものがかすんで見える。⑦目がかゆい。⑧目がごろごろする。⑨目が赤くなりやすい。⑩眼が痛い。⑪目が重たい感じがする。⑫理由もなく涙が出る。 5つ以上にチェックがつくとドライアイの可能性があります。当然ほかの疾患でもこれらの項目があり、ドライアイだけではないのですが、少なくてもドライアイの可能性があるということです。また、10秒以上目を開けていられない、または瞬きが1分間に40回以上もあるならその可能性が更に強くなるといわれています。 ・ドライアイの要因と分類 有病率は女性に多い傾向にあります。涙液の分泌が低下してしまうシェーグレン症候群や、蒸発が亢進してしまう状態、油の腺がうまく機能しなくなってしまう病態、コンタクトレンズやアレルギーによる眼表面の疾患と、ほかにもたくさんあります。VDT(パソコンやスマホを長く使っているとき)の作業が長いとドライアイの原因になりますし、冷暖房の中で長い間過ごすなどの環境も大きく影響してきます。 リラックスしているときとVDTの時では瞬きの回数が変わって来ます。ものをじっと見ていると瞬きの回数が少なくなっています。すると傷ができるのですが、正常なら瞬きで傷は治ります。 ・ドライアイの治療 最近の点眼薬は大変たくさんありますが、まずはどこの部分に効かせたいかで選びます。そのほかに、乾燥には保護メガネを装用する、涙点(涙の90%がこちらから出ていく)からの流出を止めるプラグを入れる方法、コラーゲンを涙点に入れて数か月涙の流出を止めてしまう方法、あまりに重度の場合は手術で涙を閉じてしまうという方法などもあります。 初期で、なんとなく自覚する場合はセルフケアを行います。市販で防腐剤の入っていない、涙の成分しかない目薬で加水します。そうすると涙の量が増えるので潤いを保てるようになります。しかし傷ができたり、症状に自覚が出てきたり、という場合には加水しながら傷を治す目薬を追加します。それでも改善しない時には受診していただき、医療が介入することになり、点眼薬、プラグなどの相談をさせていただくことになります。 目が乾くのでじゃぶじゃぶ目薬をさしてもよいですか、と患者さんからよく聞かれます。点眼液1滴あたり、 30~50μlですが、角結膜で保持できる量は20~30μlですので1滴で十分です。過度にさしてこぼれると、皮膚が荒れてきて、ほかの眼瞼炎などの病気になることがあるので注意してください。 かなり重度のドライアイの方で、朝、昼、夕、寝る前とさす場合は、その中間に傷を治す薬を、それでも乾燥する場合は、その間に加水する。目薬と目薬の間にさしてもらいます。一日中目薬をさしているようで忙しいですが、重度の症状の場合には傷を改善しないと日常生活が辛くなるのでこういったお話をしています。 (3)白内障 ・原因 水晶体が白く濁ってくる病気です。 加齢、アトピー性皮膚炎、ブドウ膜炎、糖尿病などの疾患による場合や、外傷の既往がある場合、ステロイドなどの全身投与を受けている、放射線治療を受けている、そのほか、外でお仕事をされている方で紫外線や赤外線を受けることが多い場合でも白内障は進行します。 ・症状 濁り方はさまざまです。 芯の部分がにごる、周りが白く濁ってくる、また真っ白になってくる場合もあります。 このような場合はほとんど見えないとおっしゃる方が多いです。 ・自覚症状 かすんで見える、片眼で見ても二重、三重に見える、まぶしい。加えて、近くが見えやすくなるということもあります。水晶体の芯の部分が濁ってくる場合は、近視化といって手元に焦点が合ってくることがあります。 クロード・モネという印象派の画家は、72歳の頃より白内障が悪化してきたといわれております。 59歳の時の作品では、橋、睡蓮がはっきりとしており色も鮮明です。82歳の時(視力0.01位)にも同じような景色を描きましたが、色も暗くぼーっとした絵画になっています。しかし、白内障手術後に自分の絵を加筆して完成させた「睡蓮」という絵は、みごとにきれいな絵に戻っています。 このように白内障も進行していくと、色の見え方も変わってきます。 白内障の点眼薬というのを聞いたことがあるかもしれません。進行を緩やかにする可能性があるといわれてはいますが、濁った水晶体はもとに戻りません。視力の改善は外科的手術のみで可能となります。 (4)緑内障 視神経が障害され、視野(見える範囲)が狭くなる病気のことで、眼の奥の視神経乳頭のところが傷んできます。緑内障の有病率は40歳以上で約5%です。 ・正常な視神経乳頭および網膜神経線維 網膜には透明な神経線維が約100万本あり、中心から10度以内に約半数の網膜神経線維が走っています。 上の神経線維の情報は視神経乳頭の上に戻ってきます。下は下の視神経乳頭のところにそれぞれ戻ってきて決して上と下が交わることがありません。このことが緑内障の状態把握のために大変重要なことになってきます。また、下側の欠損がある場合は脳の中で反転するので、上の視野が悪くなります。 視神経乳頭の真ん中のくぼみのところがだんだん大きく深く、凹んでくるのが緑内障です。 網膜神経線維が入るべき視神経乳頭へ戻れなくなり、だんだんと網膜神経線維がやせてきます。 やせたところは、眼底写真で暗い状態になって見えます。その場所では、光を感じる力が弱くなってきて、進行するとその場所の視野が欠損します。 ・視野とは 視野の範囲には、右眼で見る範囲、左眼で見る範囲、両眼で見る範囲があります。私たちは普段両眼で物をみています。そのため物が立体的に見えるのですが、片眼が病気で悪くなっても自覚しにくいため、発見するのが遅くなってしまうことが多いのです。 視野というのは、片眼で外界のある一点をじっと見ていて、そこに見える範囲、 視野の広がり片眼で見た時に、上方は60度、下方は70度の広がり、鼻側60度、耳側はもっと広く100度くらいの広がりを持っています。 そして、視野の感度は、網膜の黄斑という、物を見る中心は、神経節細胞や神経線維がたくさんあり、とても感度が高いです。私達の視野は、中心が非常に感度が良く、周辺に行くほどなだらかに下がってくる「視野の島」という形をとる感度を持っています。これらのことを考えながら、皆さんの見えている範囲やどのくらいの量が見えているかを日々検査しています。 ・視野の検査方法 ① 動的視野検査 明るく大きい光は遠くから来てもすぐわかるのですが、正常でも小さく暗い光はなかなかわかりにくいものなのです。動的視野検査は、視野の広がりをチェックする検査です。 視神経乳頭には光を感じないマリオット盲点というところがあります。そこを確認してから視野検査を行います。緑内障の早期には光を感じにくいところが出てきたり、さらに進むと近くに人が来ても気づかなくなったり、とても進行してしまうと真ん中だけしか見えなくなってきます。こうなると歩くのも危なくなります。 ② 静的視野検査 視野の感度を測る方法です。 静的視野検査は光ったなと思ったら、押してもらう検査です。 病態が経過していくと光を感じにくくなる場所が出てきます。実際にどの程度の感度があるかを数値化するので、進行の経過観察が可能です。 視野検査は、その方の視機能をしっかり把握させてもらうのに大変重要です。 ・緑内障の自覚症状 かすんで見える、一部に見えにくいまたは見えないところがあると言って受診されることがまれにありますが、自覚症状は進行するまで気づきにくいものです。 ある画像を見た時、早期の場合は何となくかすんで見える程度ですが、少し進んでくるとぼやっと見えたりします。視野の欠損が一部に出てくると、この画像の一部は見えなくなってしまいます。さらに進行すると視野がかなり狭くなり、真ん中はよく見えるのですが、周辺はほとんど見えなくなるため、横から車がるのが認識できなくなり危険です。 しかしこれは、症状のある方の眼だけのことなので、両眼で見ている場合はなかなか気づきにくいのです。 ・緑内障の治療 何よりも眼圧を下降させて循環を改善させ、進行を遅らせることが重要です。点眼剤や、最近では眼の中の水(房水)の通りをよくするレーザー治療などがあります。それでも視野の悪化がすすんで、点眼剤を多数使っていても眼圧下降が不十分な場合手術を行います。ただ、緑内障は神経線維が傷んでいく病気なので、白内障のように手術で見え方がよくなることはありません。何よりも眼圧を下げるのが目的の手術になります。 ・眼圧とは 眼の硬さが眼圧です。眼の中では房水を作って房水の出口(隅角)に流れ出すことで眼の中の圧を一定にしています。涙とは違って眼の中で勝手に作っては出している機能です。隅角が広い人と狭い人がいて、それによって注意すべきことが違ってきます。広い人でも機能が悪いと眼圧を正常に保てません。 閉塞隅角といわれる隅角の狭い人の場合、うつぶせの姿勢を日々長く繰り返すと、隅角がより狭くなり 眼圧の高い人は開放隅角緑内障、眼圧は正常値でも緑内障としての所見が出ている人は正常隅角緑内障といいます。わが国では正常眼圧緑内障が大変多いです。欧米では逆転します。隅角が狭い方は中国系には多く、人種差が大きいのです。 ・薬物治療に求められるもの それぞれにどこの場所に効かせて、どんな作用であるかということを考えて選択します。 ①眼圧(を下げる)効果の高いもの、 ②安全性が高い、できれば副作用がすくないのがよい ③点眼回数、差し心地、保存方法、点眼のしやすさ 必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることができるものをつねに考えて治療をしています。 (5)糖尿病網膜症 我が国の糖尿病患者は予備軍を含めると2210万人と推定されます。(2007年) そのうち失明に至る人が毎年3000人もいるといわれています。糖尿病によって網膜血管が障害されてきます。網膜の中には微小細小毛細血管、たくさんの毛細血管が走っています。それらの血管の透過性が亢進して出血の原因になったり、ちいさな瘤ができたり、白い斑点がぽつぽつと出てきたりします。これらが単純網膜症の状態です。 これが進んでくると血管の内壁が詰まってしまい、虚血という状態になります。すると眼は血流が欲しくなってくるので、出血も増えてくるし、白い斑点もたくさん出てきて、増殖前網膜症という状態に移行します。白い斑点は神経線維に栄養が行かなくなって出てくる軟性白斑といわれます。さらに放置してしまうと、閉塞した血管の領域にたくさんの血管新生因子が増えてきます。新生血管はもろいので出血しやすく、出血をくりかえすと血液成分が膜を形成し網膜を引っ張り合う、牽引性網膜剥離という状態になってしまう増殖網膜症となります。この状態を放置しておくと完全失明に至ってしまいます。 ・糖尿病網膜症の自覚症状 はじめはかすんで見える、見えにくい、歪んで見える、黒いススようなものが見える、突然の視力低下、などがあります。 ・治療 糖尿病を指摘されて、眼の症状はないものの眼科受診を進められ受診、何回か受診しても何もないので、もういいかと受診をやめてしまい、何年か経って、かなり網膜症が進行してから自覚症状が出てきたため受診されることが度々あります。 糖尿病では血糖コントロールが何より重要なのは言うまでもありません。出血が起きてからは、血流の悪い場所が多いのでレーザー治療を行います。網膜の黄斑部が腫れてくるためもあるので、その際には、腫れをひかせる注射をすることもあります。それでも大きな出血を起こして、さらに進行していく場合は、硝子体手術といって、眼の中に器具を入れて、出血をきれいに洗い、血流の悪い場所にレーザー治療を行います。 (6)加齢黄斑変性 黄斑はとても重要な場所で、物をみる中心の場所です。黄斑部はへこんでいて、視力を担う細胞がきれいにならんでいます。これが大事です。 ところが、日々の代謝の中で加齢に伴う老廃物が沈着してくると、だんだん組織が傷んできます。するとそこに悪い血管が生え、黄斑部を持ち上げてきます。そうすると物が歪んで見える、見ようとするところが見えないなどの症状がでてきます。悪い血管は出血しやすいので眼の中の黄斑部で出血し、漿液性の水分がたまる。そういうことが起きるのが加齢黄斑変性の状態です。 ・自覚症状 かすんで見えたり、見たいところが見えにくかったり、周辺は見えるが、物が歪んで見える。そんな訴えがあります。加齢黄斑変性のタイプも、出血が起きる方もあれば、昔から弱い方、今活動性はないが萎縮層といって萎縮性の変化を持っている方もあります。この萎縮性の場合には積極的な治療はしませんが、出血があり新生血管ができて悪いことがおきている場合には、この血管内皮の増殖因子阻害薬を眼の中に注射します。 また、その部分だけに効かせる造影剤を入れ込んで新生血管だけを照射するレーザー治療というのもあります。それらを併用することもあります。しかし、一度できた新生血管は完全には良くならないので、できるだけ元気がない状態を維持させるというのが今の治療です。 (7)高血圧眼底・動脈硬化性眼底・動脈閉塞 網膜は唯一血管を見ることができる組織です。ある時、急に見えなくなったと受診された方に網膜にたくさんの出血を認めました。内科にはかかっておられないし、血圧も測ったが高くはないとのことでしたが、診察すると、血圧も非常に高くて227/123にもなっていました。このように急な血圧の変動によっても網膜出血を起こすことがあります。この方には内科を紹介して治療していただいて、現在は出血も改善して視力も良好に保てています。 また、動脈硬化により血管が硬くなると、上の血管と下の血管が交差している場所では、上の血管が下の血管を圧迫してしまう場合があります。すると交差部に血栓ができやすくなり、急に出血を起こすことがあります。すべての人ではないですが注意を要します。 急に動脈が詰まる動脈閉塞は、突然全く見えなくなります。急に血流が途絶えてしまうため、発症して1時間から2時間以内に治療すれば、改善出来る可能性もあるのですが、なかなか改善が難しいのが現状です。 こういった疾患を起こさないためにも、日々内科の先生に血圧やコレステロールを管理してもらうのは非常に大切だと考えています。 3.終わりに ・眼科の診療をしていて私が今思うこと 近年、薬物治療や手術が進歩してきて、多くの重症例においても完全失明は回避できるようになってきました。ですが、良好な視力を維持するためには、適切な全身管理に基づく、タイミングを逃がさない治療が最も大切と考えています。高齢になったから、歳のせいだからと言うのだけではなく、まず気になることがあれば受診して今の状態を把握することが大切です。 私たちの役割としては、まず患者さんの話をよく聞いて、今の状態を把握することが何より大切と考えています。 患者さんの見えない不安や不自由さ、今後の視機能に対する不安に寄り添い、現在の視機能の維持に日々努めたいと思っています。 物が正常に見えるすばらしさを維持するために少しでもお役に立てるよう皆様とともに頑張っていきたいと思っています。 本日の講演が皆様に少しでもお役に立てればと思っています。 ご清聴ありがとうございました。 以上 |
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2025年10月 講演の舞台活花

活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
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