第10回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
2025年3月13日
【幸福長寿のすすめ:フレイル・ロコモの克服】
大阪ろうさい病院 総長 大阪大学 名誉教授
樂木 宏実 氏
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講演要旨 長生きをしたい、健康でありたい、体が弱っても幸せと思える人生を過ごしたいという希望を叶えるためには、フレイルとロコモの克服が大事です。自分で実践できることから未来の姿までお話しします。 |
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<はじめに>
今日の講演のキーワードは「幸福長寿」「フレイル」「ロコモ」です。 平均寿命が延び「人生100年時代」と言われていますが、元気で長生き=健康寿命が大事です。しかし身体が弱り通院しながらも心が元気な人がいます。その人たちを「健康寿命」から外れているとすると「私たち医療関係者は何のためやっているのだろうか?」ということになります。生きていて幸せと感じていることが大事ではないかというのが「幸福寿命」の考えです。「貢献寿命」(後述)もあります。このように、「寿命」については様々な考え方があります。 健康長寿、幸福長寿を目指すには、「フレイル」「ロコモ」の克服が必要です。「フレイル」は英語のFrailtyのことで、以前は「虚弱」と訳していました。「虚弱」には身体が弱り、元に戻らないというイメージがあります。元の言葉は「戻り得る」という点に重きをおいています。日本老年医学会で、この考え方を加えるために別の言葉を考えましたが、適当な言葉がなく「フレイル」としました。 本日は、これらのキーワードを中心にお話しします。 <人生100年時代> 平成29年安倍政権時代に「人生100年構想会議」が学識者を中心に発足しました。その会議で、『ワーク・シフト』の著者であるリンダ・グラットンさんが「ある年に誕生した人が何歳まで生きるか?」について各国の年齢を示されました。それによると日本はトップで107歳、ドイツは102歳とのことです。計算方法にもよりますが、現在日本で100歳以上の方が少なからずいらっしゃるのは事実です。令和6年の日本の100歳以上の人口は9.5万人で総人口の0.1%、内女性が83,958人と多数を占めています。80歳以上は1290万人で全人口の10%を超えています。この年齢でも多くの皆さんは心身ともにお元気です。一般には、65歳以上が高齢者とされますが、人生100年時代の高齢者像はこの年齢で区切られるものではないと思います。ちなみに、65歳以上の人の全人口に占める割合は29.3%で世界最高です。平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳。これが年々伸びています。「平均寿命を超えたから十分生きた、満足だ。」と考える方がいますが、それは誤解です。「80歳の人があと何年生きられるか」を表す80歳での平均余命は男性約9年、女性約11年です。医学部生に、患者さんが平均であと何年生きられるかを考えることとその期間の長さ・重みを知ることが重要と説明しています。社会全体が、人生100年時代の高齢者像を正確に理解するべきだと実感します。 平均寿命とは別の言葉で、健康寿命についてお話しします。日常生活に制限のない期間の平均です。2019年のデータで男性72.68歳、女性75.38歳で、男女差は平均寿命の男女差より短いです。平均寿命と健康寿命の差は男性約9年、女性約12年と女性の方が長いですが、女性はフレイル(後述)の期間が長いため、男性はある程度の年齢で大病により急逝するためだろうと思われます。 サクセスフル・エイジングはいい訳語がありませんが、うまく年を重ねることを意味します。①日常生活に影響するような病気や障害がない、②認知機能や身体機能が保たれている、③社会的な活動に積極に関わり良好な人間関係を維持し、創造的な活動を行い、生きていることを実感できている、の3つが揃っている状態を言います。身体だけでなく、頭もしっかりしていることが重要です。熟年大学を受講されている方は3条件を満たし、サクセスフル・エイジングの道を歩まれていると思います。 ウエルビーイングとはWell=良い+Being=状態、すなわちすべてが快適な状態を意味します。厚生労働省は「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態であること」、WHOは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされている状態」と定義しています。 このように寿命に関して様々な指標があって、個人にとって最上の年のとり方を追い求めようといったイメージです。しかしながら、既に高齢になられた方を診療する立場から言うと、多くの高齢者は日常生活に制限がありつつ、独自で或いは家族と何とか工夫して生活されています。この状態で健康寿命ではないと言うだけでいいのか、健康が損なわれつつも自分らしく生きることを大切に感じている期間に対して幸福という表現が相応しいかわからないですが、健康寿命に加え「幸福長寿」という発想が大事ではないかと感じます。 <幸福とは幸福長寿とは> 慶應義塾大学の伊藤裕教授の著書『幸福長寿~腸内細菌が導く人生100年時代~』で「幸福寿命とは人生において幸福と感じられる時間」と定義されました。しかし幸福とは何か?幸福は計れるのか?幸福な時とそうでないときは交互にやってきます。幸福を寿命として測定できるか難しいですが幸福長寿につながる発想です。 さて、「幸福」を測定するというと、福井県出身の私は「幸福度日本一 福井県」と言う言葉を思い浮かべます。人口80万人の小さな県ですが、「幸福」を生活の場で表現された福井市生まれの幕末の歌人、橘曙覧(たちばな あけみ)を紹介します。「楽しみは」、で始まる短歌を沢山詠んだ人物です。「たのしみは 朝おきいでて昨日まで 無かりし花の咲ける見る時」は、天皇皇后両陛下が訪米された際に、当時のクリントン大統領が歓迎スピーチで引用されたことで有名です。日々の生活の中に幸福があるという発想で、幸福長寿に結び付くように思います。 幸福の感じ方は人によって異なります。「禍福は糾える縄の如し 人間万事塞翁が馬」ということわざの通り、人生いい時も、悪い時もあります。いろいろな積み重ねの結果なので一人一人の幸福度は測定できなくてもいい、つまり個人の幸福寿命の測定は必要ないと個人的に思っています。一方で、社会全体での幸福度は意味があり、内閣府に「満足度・生活の質に関する調査」で幸福度を測定する指標があります。生活面とインフラ面の13分野満足度調査あります。私が考える幸福長寿の背景にあるものとして大事と思っています。 私が幸福長寿を考えるきっかけになったのは、私たちが実施してきた健康長寿研究(SONIC)です。SONICは、①加齢に伴う心身の変化を明らかにすること、②健康に長生きする方にはどのような特徴があるのか、という2つの疑問を明らかにするために2010年に開始した調査です。兵庫県の朝来市と伊丹市で70歳、80歳、90歳を対象に13年間健診と聞き取り調査を行いました。100歳以上の人は大阪大学人間科学研究科の権藤恭之先生らが自宅へ行きインタビューをしました。 別の言葉で、貢献寿命という考えも提唱されています。社会とつながり、役割を持ち、誰かの役に立つ、感謝されるといった関わりを持ち続ける人生期間をいいます。仕事、ボランティアで感謝される期間を長く持ち、長生きを喜べる社会を目指したいというアクティブシニアに通じる言葉です。実際に貢献寿命を延ばすために対策すべきこと・できることは、幸福寿命を延ばすための対策とは視点や考え方が異なり、社会にとって大事な提唱です。これに関連して、「プチ就労」を紹介します。週5日は働きたくないけど、週3日程度なら、あるいは週1回ならという人はいらっしゃるでしょうし、お金よりも人との交流を求めてボランティアを含めて働きたいという人もいらっしゃいます。希望者と受け入れ会社をつなぐマッチングアプリも登場しています。ここで受け入れ側が心配するのが、働く人の安全面で、健康と言っても様々な観点で受入れ側が及び腰になることもあって、今後の課題です。 大阪大学老年・総合内科学講座の山本教授らはこの解決のために「安全な運動・就労のための健康モニターシステム」の開発に取組んでいます。手首にはめるだけで、身体、心の健康状態を測定し、異常があればアラートがでるような装置を考案中でこれらを実現していくのが課題です。「生涯現役」という言葉がありますが、働き詰めで一生終わるという捉え方ではなく、定年後はやりたいことをやりながら働く、働き方を変えて人生を楽しむことであれば、「生涯現役」は多くの人に当てはまると思います。シニア就労を研究されている前田展弘先生も「シニア就労・社会参加の現状と課題」としていくつかの「就労パターン」を出されています。その中で「65歳までは生計のために就労し、その後、量を減らしながら、生きがいのために活躍し続ける」のが理想のパターンとしています。 国が実施したアンケートを基にした「高齢者白書」では、65歳以上で収入を伴う仕事をしている=30.2%、社会活動に参加=51.6%、社会活動に参加して良かった理由で「生活に充実感ができた」=48.8%となっています。2020年の65歳~69歳の就業率は男性=60% 女性=40%で年々増加しています。米国、スウェーデン、ドイツも日本ほど、就業率は高くありませんが、同じく増加傾向です。70歳~74歳で30%、75歳で10%の人が働いている。高齢者が安心して働けるようなサポート体制が必要です。何歳まで働きたいか?というアンケートもあり、働けるなら65歳を過ぎても働きたい=6割弱、75歳過ぎても=4割弱と少ない数字ではありません。茨城県取手市で活動する「とりで健幸応援団」は、人生を豊かにする3つの寿命として、「健康寿命」「貢献寿命」そして「幸福寿命」の相互関係と繋がりが大切であると掲げています。長寿社会においては、、健康と幸福を考えるのに、働くことを含めた社会参加も大事であるといえます。 <高齢労働者の安全安心> 高齢になってからの社会参加を考えるのに、安全の問題は大きな課題です。労働災害による死傷者のうち60歳以上の割合が年々増加し、転倒災害の約30%が60歳以上です。高齢になるほど労働災害が生じやすいといえます。 60歳以上では転倒による災害が急増し、7割が骨折しています。高齢者は骨密度低下により、骨折しやすい事実があります。転倒予防を考慮した職場環境づくりも大切で、厚生労働省は労働者の転倒災害の原因と対策の啓発ポスターやガイドラインを作成しています。滑り止め、階段等の段差がわかるよう、滑らない環境づくり対策、個人にも体操等で身体を動かす、転倒リスク、骨折リスクを調べるよう、明示しています。 2年前に大阪ろうさい病院に院長として赴任しましたが、全国のろうさい病院を統括する労働者健康安全機構の理事長から「国は環境づくりを行ってきたが、個人に対する対応がはっきりしない。ここを検討して欲しい」と要請があり、現在は総長という立場で研究に専念しています。転倒する前にバランスを崩す、原因は身体機能低下等の内的要因と職場環境等の外的要因が考えられます。介護施設職員を対象に転倒に至る労働者の身心の特徴を明らかにする調査研究、転倒しやすい人を簡単に見分ける方法や予防のために簡単に摂れる食品の開発につながる基盤研究を実施しており、ろうさい病院として社会に貢献できる成果を上げたいと努力しております。 <年齢と共に難しくなる安心安全の確保> 転倒による死亡は60歳を過ぎると5歳刻みで倍加します。こけたら死ぬかもしれないのが高齢者です。高齢になるほど、転倒予防策が死亡率低減に寄与できる部分は限られています。転倒は介護の原因になることがあります。2022年度の「介護が必要となった主な原因」調査で男性=転倒骨折6.6% 関節疾患=5.4%計12% 女性=17.8% 12.7% 計30%となっています。介護を必要としないために、身体をしっかり動かすことが大事です。 転倒は住環境要因と個人の要因が複雑に絡みあって起こります。少々の改善では解決できないところに、高齢者の転倒予防の難しさがあります。介護施設で転倒事故に関連した訴訟が多いことが問題になり、関係者から「介護施設での高齢者の転倒と予防可能性について科学的に明らかにすることの相談がありました。色々調査し次のようなことを趣旨にした「施設での転倒に関するステートメント」を出しました。① 転倒すべてが過失による事故ではない、② ケアやリハビリテーションは原則として継続する、③ 転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る、④ 転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る、の4つです。 この作業の中で、社会の理解と介護現場で起こっていることに乖離があると改めて認識しました。良かった点はこの宣言により、施設の転倒予防を含めた対応の見直しに繋がり、職員も安心して働ける環境になったことです。 <フレイルの克服> 健康維持のために、ちょっとした体調不良でも気兼ねなく相談できるかかりつけ医を持つことが大事です。それとともに、自分自身でできる対策としてフレイル・ロコモを克服していかねばなりません。昔は、身体機能は大きな病気のたびに段階的に悪くなることが多かったですが、最近は、大きな病気に関係なく元気な状態から何となく徐々に弱っていく方のパターンが増えています。病気をしても予備能力があれば元の状態に戻りますが、加齢に伴う予備能力の低下により、元の元気な状態に戻らない。これがフレイルです。 フレイルの診断のひとつに「改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)」があります。診断項目は以下の5項目です。いずれも該当なし=健常、1~2個該当=プレフレイル、3~5個該当=フレイルと判断されます。 1.体重の減少…6ヶ月で2㎏以上の(意図しない)体重減少 2.筋力低下…握力男性<28㎏ 女性<18kg 3.疲労感…(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 4.歩行速度低下…通常歩行速度<1.0m/秒 5.身体活動低下…①軽い運動・体操をしていますか? ②定期的な運動・スポーツをしていますか?の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答 フレイルにつながる加齢性の筋肉減少(サルコペニア)を調べる方法として、両手の親指と人差し指を合わせて輪っかを作り、ふくらはぎの一番太いところが輪っかよりも細い状態を判定する簡単チェック法を併用している先生もいらっしゃいます。 フレイルは足腰の問題と思われていますが、オーラルフレイル=噛む力、飲み込む力が弱ることもフレイルの因子になっています。飲み込む力が弱まると誤嚥性肺炎になることもあります。飲み込むために必要な働きを鍛えること、口の中をきれいにすることがオーラルフレイル対策になります。 和歌山県立医科大学附属病院紀北分室のホームページに「高齢者の生活を曇らせる健康問題」が掲載され「動脈硬化疾患、サルコペニア、がん、認知症、ロコモ等の病気に覆い被さるようにフレイルがある。全診療科でフレイル対策を行う」と書かれています。病気の診療+αのことをされています。高齢の方の受診が多い病院と思われますが、先進的取り組みです。 <フレイルに先行するロコモ> ロコモの発症パターンは、歩ける状態→運動器管の病気→痛みや働きの衰え→移動能力の低下→ロコモが多いです。高齢になって初めてロコモになるというより、高齢と呼ばれる前から少しずつ進行しています。フレイルよりも早い段階でロコモの最初の段階が訪れ、その後にフレイルになり、さらにロコモも重症化していくことが多いようです。メタボ→ロコモ→フレイルの順が多いこと、それぞれの時期に応じた対策が必要であることを強調しておきます。 ロコモを紹介するホームページに7つのロコモチェック項目が出ています。7つのうち1つでも該当すればロコモの可能性があります。 ①片足立ちで靴下がはけない ②家の中でつまずいたり、すべったりする ③階段を上がるのに手すりが必要である ④やや重い家事が困難 ⑤2㎏程度買い物をして持ち帰るのが困難 ⑥15分続けて歩けない ⑦横断歩道を青信号中に渡りきれない。インターネットで「ロコモ25」を検索してみてください。25の質問に答えるとロコモの重症度をチェックできます。 <フレイルとロコモの予防と対策> フレイルやロコモ予防のための基本的な対策はしっかり食べて、しっかり歩くことです。75歳以上で健診を受けると心身の状態、食生活、口腔機能、運動・転倒、認知機能、社会参加等、15項目の質問票が来ます。この回答で一つでも該当すれば、考えてみることが必要です。フレイルやロコモが疑われたら、保健師、医療機関、ケアマネージャーに相談してください。 質問票の15項目の中でも、歩行速度、転倒、運動の3項目に絞った対策を大阪府と話し合っています。これらは、ロコモ、サルコペニア、心不全、骨の病気等に関係する質問です。大阪府下1200人の調査で、3項目該当5.6%→ロコモ・フレイルの可能性大で医師の治療優先、2項目該当64.4%→ロコモ・フレイルの可能性ありのデータがあります。2項目該当者のうち、筋肉や骨の疾患がない人には集団指導を目標にしています。フレイル・ロコモ予防・対策のための啓発リーフレットには、①スクワット ②片脚立 ③つま先立のトレーニング方法も記載しています。フレイル、ロコモは栄養が足りないという場合もあります。栄養障害の原因を正しく把握し、バランスよくしっかり食べるが大事です。特にたんぱく質は筋肉をつくり、ビタミンⅮは骨粗鬆症の予防になるので、十分とってください。家族や仲間と一緒に楽しく食べることも必要です。孤食であっても栄養バランスのとれた食事には気を付けてほしいです。宅配弁当をとるのも一つの方法です。決してサプリだけに頼らないでください。 日本医学会連合は、フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言を出し、80歳で元気に外出することを目標に、「80GO(ハチマルゴー)」運動を提唱しています。是非、参考にしてください。 <人生の最終段階と幸福長寿> 高齢者が健康を損なえば、アンチエイジングよりウィズエイジング=支える医療、日常生活機能を維持することが必要です。 さらに進んで、人生の最終段階では、人工的に栄養を摂る状況になることもあります。方法として、胃ろう、経鼻経管、皮下注射等がありますが、具体的な方法やそれぞれのメリット・デメリットの理解は一般には進んでいません。元気なうちに家族や周囲の方とよく相談して選択しておくことが大事です。 そこに至るプロセスとしてACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)があります。本人がどの様な治療を望んでいるかの意思確認を繰り返し行うものです。ACPを受けるタイミングは様々で、選択が変化することもあります。周囲に意思をできるだけ明確にしておくことが重要です。救急搬送された高齢者が、最期の段階でどんな治療を望んでいるかわからないことが多々あります。2024年12月には、日本救急医学会から市民、医療関係者、行政に対してACPを含めて本人の意思確認を日頃から行うことの大切さを含めた提言が出されています。 高齢者だからと言って医療的な差別を受けることがあってはいけません。ご自身が希望する最善の医療を受けられることが重要です。年齢差別、エイジズム発言を平気で口にする人が医療者の中にもおり残念です。エイジズムのない社会は、個々の幸福長寿実現に重要な要素であろうと思います。 <高齢者の定義> 世界的な人口統計などでは、65歳以上が高齢者として扱われることが多いですが、この年齢に到達して間もない方のほとんどは、身心の状況がまだまだ若い年齢です。 何故、高齢者の定義が必要なのか。エイジズムの観点からみると、暦年齢での定義はない方がいいです。しかし、社会保障上は色々な観点で生きていくことに対して支援が必要な人が多い集団を特定するために暦年齢は便利な指標です。年齢によらず健康な人もいればケアや支援を必要とする人もいる大きな集団として捉えるエイジレス社会に移行するためには、暦年齢ではない生物学的年齢の指標が必要で、本日お話ししたフレイルやロコモはその一つになる可能性があります。 漫画「サザエさん」の磯野波平さんの年齢設定は54歳です。1965年頃の定年は55歳。当時の定年直前は波平さんのような感じだったと思われます。しかし現在の65歳はかなり違います。日本人全体が若返り、歩く速度も男性10歳、女性20歳若返っています。意識も当時とは大きく違います。国民への意識調査で、「自分が高齢者と思っている割合」は65歳ではかなり低く、75歳でようやく6~7割を超えます。社会保障上「支えられるべき高齢者の年齢は?」との問いに対しても、80歳以上とする回答が一番多く、60歳~74歳とする回答は25%ぐらいに留まりました。 社会保障上必要な暦年齢での区分について、65歳から75歳に変更すべきというのが現在の日本の状態ですが、高齢者の定義変更は、社会的にいろいろな問題をはらんでいます。このような提言を日本老年学会・老年医学会が発信した際には、「年金がもらえなくなる」という不安の声と、「これで元気を貰えた、もっと頑張れる」と言う声が入り混じっていました。幸福長寿の話には、ポジティブな側面だけでなく、それを支援できる社会保障体制の維持、国民の意識の変革が重要であることを示すエピソードと捉えています。 <むすび> 先ずは健康長寿が大事です。フレイルやロコモを理解し、栄養と運動を見直し、幸福長寿を考え生活して頂きたいと思います。フレイル・ロコモの克服には、本人の努力、社会の理解、技術の進歩が求められます。健康長寿であれば、働けるうちは働きたい人の健康を支え、職場での安全にも貢献することが期待されます。その後、健康を損なったとしても、生活活動能や幸福感を指標に幸福長寿という考えで生きることを楽しんでいただきたいと思います。私が専門とする医療の立場では、病院や医療人も考え方を変えていかなければなりません。医師と看護師だけではなく、多くの職種の医療人が関わって患者さんを支える時代に向かっています。人生の最終段階におけるケアのあり方、その前の段階でのACPなど、ご本人が関わる部分も大きくなっています。医療の現場からの視点ではありますが、このような時代の変遷と共に、幸福長寿を考える人が増えるようになれば、暦年齢で区切らないエイジフリーの社会が実現できると思っています。 以上です。長時間、ご清聴ありがとうございました。 |
2025年3月 講演の舞台活花
活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
平成24年3月までの「講演舞台活花写真画廊」のブログはこちらからご覧ください。
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