第10回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
2021年3月18日

 化石からたどる植物の進化
~身のまわりの植物の歴史~

  

大阪市立自然史博物館 外来研究員
塚腰 実氏

講演要旨

地球ができたのは46億年前。しかし、陸上に植物が現れたのは5億年前です
その間に、植物は生殖方法や体の作りを変化させ、現在に至っています。化石と身のまわりの植物から植物の進化をたどってみましょう。


 今日は、私が植物の進化に興味を持っており、それについて皆さんが忘れない様にしつこく話しをしたいと思っています。
 舞台に綺麗な花が飾ってありますが、もし2億年前にこの講座があったらこのような美しい花ではなくマツ等が飾られていることになります。つまり、2億年前に人類が生きていたら、まだ美しい花の咲く植物が存在していなく、花見が出来なかったと言うことです。現在、美しい花を咲かせる植物は15千万年前に出現し、1億年前以降に爆発的に進化して今日に至っています。
 皆さんのお手元に5種類の植物、シダ植物、裸子植物、被子植物を用意しました。シダ植物のオニヤブソテツ:葉の裏に茶色のブツブツ(胞子嚢)が付いています。裸子植物のヒノキ:雄花がついていて、ここから放出される花粉が花粉症の原因になります。ヒノキの球果:球果とは、マツで言えばマツボックリに相当します。被子植物のナズナ:春先に花が咲き、ハート型の果実が付いています。被子植物のセンダングサ(くっつき虫)の果実:トゲがいっぱいあり、服にくっつきます。被子植物のアズキ:白い部分はヘソ(母に相当するマメのさやにくっついていた部分)です。豆類のヘソは一般的に細長いです。種子には必ずヘソがありヘソの形で化石であっても種類を見分ける手がかりになります。
 裸子植物と被子植物のどこが違うのか、また、いつ頃から繁栄したのか説明したいと思います。
 生き物の分類は、現在では大きく「細菌・古細菌・真核生物」に分ける説が有力ですが、ここでは、わかりやすく細かく5つに分類する考え「植物界、動物界、菌界、原生生物界、モネラ界」に分けられている図を紹介します。今まで説明してきました被子植物、裸子植物、シダ植物は植物界に含まれます。
 ところで、皆さんお昼食には何を食べられたでしょうか? 味噌汁に入っていたシメジは菌界、ワカメは原生生物界、そして、ある人の朝食で食べた、パン(コムギ)・白菜・ニンジン・長ネギ・レタスは被子植物になります。つまり、私たちは被子植物を中心に食べています。牛肉を食べている人も、ウシは被子植物である牧草を食べて育つので、間接的に被子植物を食べていることになります。
 もし2億年前に人類が繁栄していたら(ありえない話だが・・・)、被子植物はまだ出現していないので、毎日、マツの種子や葉を食べていたと思われます。
 裸子と被子の「子」は種子の「子」で、種子の赤ちゃん(胚珠)が裸でいるのが裸子植物で、種子の赤ちゃん(胚珠)が被われているのが被子植物です。裸子植物の一つであるマツのマツボックリを世間では「松の実」と言いますが、雌花が成長したもので、これを球果と呼んでいます。マツの球果は2年かけて成長し、鱗片の上に種子が「裸」でのっています。雄花は花粉を出します。
 被子植物はどうなっているかと言うと、外側から、「がく、弁、おしべ、めしべ」で構成され、雌しべの子房の中に胚珠があります。柱頭に花粉がつき、花粉管を伸ばして受精し、胚珠が成長して種子ができ、子房が果皮になります。果実には様々な形態があり、イチゴの果実はゴマのような粒の部分で、食べる部分は果実の土台になります。
 裸子植物はあまり食べないですが、日本でよく食べるギンナンは裸子植物であるイチョウの種子の内部です。イチョウは、黄色いサクランボのようで、裸子植物らしくない裸子植物です
 
シダ植物の例は、これからの季節によく食べるワラビです。「わらび餅」はワラビの根っこから作ったものです。ワラビのライフサイクルは、胞子が風で飛んできて前葉体を作り、造精器と造卵器が形成され、精子と卵が受精して次のワラビを作っていきます。
 このように私達の生活は植物なしでは生きられない、特に被子植物なしでは生きられない状況です。植物は光合成により有機物を作っているので、植物は太陽エネルギーを有機物に変えていると言えます。つまり、私たちヒトも太陽エネルギーのおかげで生きていることになります。また、植物は酸素を出しており、ヒトは、非常に世話になっています。この光合成を人工的に行えれば凄い事ですが、まだ研究中のようです。
 次に進化の話ですが、宇宙の誕生は138億年前と言われています。地球が生まれたのが46億年前と言われ、陸上に植物が上陸したのは5億年前で、その間41億年は地上には緑(植物)は無かったことになります。5億年前まで、陸上に植物が無かったのは、オゾン層が形成されていなかったため、紫外線が強く、生物が陸上に進出できなかったと考えれています。
 25億年前からシアノバクテリア(藍藻:海の中にいる原核生物)が光合成を行って大気中の酸素が急激に増え、オゾン層ができて、紫外線が弱くなったのが5億年前で、こういう地球の環境を作ったのはシアノバクテリアということになります。

 次に化石の話をします。化石には様々なタイプがあって、化石らしくない化石もあります。化石は必ずしも石になっている必要はありません。化石とは、「過去の生物の体または生活の痕が地層中に保存されたもの」と定義づけられています。
 化石は状態で様々なものがあります。生物体が失われて葉っぱの痕だけが残った印象化石、落ち葉のような葉の本体が保存されている圧縮化石、生物体が鉱物に置き換わった鉱化化石があります。石炭も植物が変質したものなので化石燃料と言われています。
 最初に陸上に植物が現れたのは5億年前で、葉は無く、茎と胞子嚢からなる植物でした。そして、リンボク、カラミテスなど胞子で増える植物が古生代に栄えましたが、デボン紀に種子を作る植物が現れ、中生代に様々な裸子植物が繁栄し、約1億5000万年前に被子植物が出現、約1億年前の白亜紀の後半から被子植物が爆発的に繁栄しました。つまり、植物の進化は、陸上に進出後、胞子から種子へ、裸子から被子へと増える方法を変えてきました。現在、一番種類が多いのは被子植物で、私達が普段料理して食べている食用植物は、ほとんどが被子植物ですが、それらの原種もこの過程で出現しました。
 地球最初の森は、リンボク(鱗木)、カラミテス(つくしの祖先で高さが約30m)、シダに似た最初の種子植物からなる「花の咲かない森」でした
 
最初の種子植物はどうやって種子を作ったか、それは胞子嚢に回りの枝が包み込んで作ったと考えられており、そのような過程を示す化石が見つかっています。このように、植物は増える方法を「胞子から種子に進化させた」と聞くと「胞子が種子に進化した」と思えてしまいますが、そうではありません。シダ植物のワラビの場合、減数分裂(染色体数が半数のn)した胞子(n)が、前葉体を作り造精器・造卵器を作り精子(n)と卵子(n)で受精(2n)し、成長してワラビ(2n)になります。この受精したものが種子に相当します。このように胞子が種子になったのではありません。
 
最近の森の変化を見てみましょう。大阪の350万年前以降の地層(大阪層群)を60年以上もの間、京大・大阪市大・大阪教育大の学生や先生達によって地質調査が行われ、植物化石を採集し、植物の変化を調べられてきました。その成果を見ると、セコイア(現生種は北米)が255万年前に、イチョウ(現生種は中国)は140万年前に、メタセコイアは95万年前(現生種は中国)に消滅した事がわかりました。このように日本列島から消滅した植物が数多くあります。しかし、ヨーロッパでは消滅したコウヤマキは、日本特産の木として日本で生き残っています

 
このように、5億年前から植物が上陸して増え方を進化させ、森の植物も変化して、現在に至っています。今、私達の生活で普段食べているのは、ほとんどが被子植物です。身のまわりの様々な植物の進化を感じながら過ごしてください。



2021年3月 講演の舞台活花



活花は季節に合わせて舞台を飾っています。


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