第7回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
2020年12月17日

極北の大地アラスカ



太成学院大学経営学部 准教授
松浦 宏之氏

  

講演要旨

 アメリカ合衆国アラスカ州は、アメリカでも特別な州です。その極北の大自然の素晴らしさと、先住民の方々の生活についてのお話と気候変動により環境破壊が進行している現状を説明します。


アラスカはどこにあるのか?
 アラスカは一万五千年前はロシアと地続きで、たくさんの民族が移動して来て一部は定住し、その他は南下しその人たちがインカ・マヤ文明をつくったと思われます。また日本のほうにも南下し縄文文化をつくったと考えられています。そして6500年ほど前から、二回目のモンゴロイド移動があり、現在のアラスカに先住民が定着しはじめました。モンゴロイドは日本にも南下し、その後、弥生文化が形成されていきました。モンゴロイドという共通の祖先を持ち、そのせいかアラスカ先住民と日本の昔の考え方、自然との付き合い方や言い伝えが日本のそれと似ている。また、面積はアメリカの州では最大で日本の4倍あり人口は70万人ほどである。
 呼称はエスキモーだが、一時これは差別用語ではと言われ、イヌイットを使用しようと日本でも言われたが、イヌイットは北端に住む一民族の名称であり適切ではない。

自然

 アラスカと言えばマッキンリー(デナリ)山。高さ6192mで北極圏にあり、冬場は山頂付近はマイナス
70度にもなる。アラスカで形成される氷河は入江まで流れ込んでいる。この氷河の青い色が美しく、「グレイシャーブルー」と言われている。氷河は動き続けているため、温暖化の影響だけではなく毎年崩れ落ちている。
「ニュースワード・ハイウエイ」は北米では5本の指に入る美しいドライブコースで野の花が大変美しい。アンカレッジに程近い場所に「ポーテージ氷河」が広がる。ハイキングにお勧め。そして夏はサーモンフィッシング。シルバーサーモンやキングサーモンが川を遡ってくる。8月中旬はアラスカでは初秋でブルーベリーピッキングを楽しめる。
 ラッコ…好奇心が強く、集まってくる。1819世紀頃、毛皮を目的に
乱 獲され、絶滅しかけたが20世紀に入り保護が進み数が増えてきた。
 クジラ…出産のため餌の多いアラスカ沿岸部に夏の間、移動して来て、出産・子育てをする。
 シャチ…日本では見られないが、クルージングに出るとよく見かける。 白頭鷲…国鳥だが、農薬のため絶滅しかけている。アメリカのシンボとされ21世紀に入り保護されている。保護のおかげで数が増えてきました。
 ヘラジカ(ムース)…顔はひょうきんだが子連れは狂暴。体が大きく牛の倍の700㎏はある。
 グリズリー…狂暴だがアラスカはルールを守れば共生可能な極めて特別な場所。他にブラックベア、ブラウンベア、ホワイトベア(ホッキョクグマ)がいるが、ホッキョクグマは弱かったため北極圏に追われ、過酷な環境に順応し、最強の熊に進化していき、エスキモーにとっては力のシンボルとなった。
 アラスカと言えば雪と氷、シロクマと犬ぞりというイメージだが、アラスカの夏は花で溢れている。野生のルピナス、高山植物が咲き乱れる。ゴゼンタチバナ、クロユリ、チシマギク、ハクサンフウロ、勿忘草等。中でもヤナギランの群生は見事。
 オーロラは一度は見てみたいものとして観光客が多い。学生に見せたら手を合わせて感動していたが日本人の(自然神崇拝への)DNAのなせる業か、自然の中に神を感じるのだろうか。西洋人はあまり感激しない。

アラスカのもう一つの顔
 アラスカは世界にとって重要な場所である。石油がまだまだ多く埋蔵されている。以前トランプ氏は自然保護地区の調査をやめ、開発しようとした。1974年~1977年にかけて1400㎞もの距離を運ぶためのパイプラインが敷かれた。パイプを宙吊りにして移動性の動物の行動を妨げないようにし、永久凍土が溶けないよう配慮した。
 この石油開発以前、19世紀にゴールドラッシュがあり、多くの人の作業の残骸が傷跡のようにいたるところに残っている。なかでもハッチャーパスでは山一つがなくなるほど掘り返し環境破壊につながっていった。2009年この状況を伝えたく絵本を発刊した。題名「山のささやき」。選定図書となったため日本全国の図書館に配布されている。
 環境破壊は一番身近なところでは東日本大震災。津波による影響で出た残骸(海洋ゴミ)が太平洋を回遊し、10年以上たった今でもアラスカにも流れ着いている。
 これまでフィールドワークとしてアラスカ内のごみ問題を調査した。アラスカは自然が豊かで人口も少なく環境問題も処理されていると思いきや、日本のようにリサイクルや分別など一切なし。ビンも生ごみも一緒に捨てる。ごみは森の中に穴を掘り(ランドフィル)そこに捨て、埋めてしまうシステム。満杯になれば別の森を切り開き穴を掘る。また先住民の村では生ごみから冷蔵庫・自動車に至るありとあらゆるごみを燃やすため有毒ガスが発生する。また下水処理施設がないため、人の汚物も袋詰めして屋外に放置する。何事にも整備するにはお金がかかる。これがアラスカの現実である。
 ごみ処理を含めたリサイクル社会の構築。煙の出ない焼却炉、プラスチックの再生装置等を駆使して環境問題を解決するプロジェクトが現在進行中。先住民もツーリズムにも力を入れ始める。他にジオツーリズム(自然の歴史や遺産の知識を学ぶ)、エコツーリズム等地元のための様々なツアーの提案中。それにより民族としての意識の向上を図り、地元を支える経済開発もでき、マーケットの拡張も期待される。
 これを実施することにより経済的利益が地元に落ちる。日本との文化交流ツアーも実験的に実施中。  
 気候変動は自然が豊かであるほどダメージの大きさを感じる。シロクマが絶滅しかけているなか、ジオツーリズムの一環として愛媛の砥部動物園に日本で初めて人工保育されて大きくなったシロクマのピースがいるが、アラスカ動物園に橋渡しをおこない、繁殖させるプロジェクトを進めている。アメリカで、唯一シロクマの生息する州がアラスカである。アラスカ動物園はその責務として単に見せるだけでなくそれを守り、その種を保存するということを掲げて最初に保護した動物がシロクマである。  
 2015年オバマ大統領が初めてアラスカ訪問され、環境破壊を目の当たりにし破壊防止を痛感され議会で述べられた。  
 もう一つ大きな環境問題として1980年代スプルースという針葉樹の立ち枯れが発生し拡大している。原因は温暖化の影響でキクイムシが大量発生したためで、深刻な状況である。また、海面上昇によって、エスキモーの村の沿岸部が浸食されてきた。
 アラスカの気温が一昨年の夏に摂氏30℃を超えた。空気が乾燥し、いたる所で山火事が発生し12週間も靄が立ち込めた。 
また、今まで沿岸で獲れなかった魚が獲れ、季節外れのクジラが回遊してくる。原因不明のアザラシの大量死。こんな異常事態がアラスカで起こっている。そしてシンボルの一つであるシロクマたちは冬場に氷が張らないため海中での餌の捕獲に限界がある。故に食べ物がなくなる。人間のごみを漁り、餓死手前の状態のものもいる。また、陸地で食べ物を漁っているとグリズリーと遭遇しハイブリッドの仔が生まれ、種の変化をもたらしている。  
 アラスカは唯一シロクマがいる場所だがその種を守るため、世界に訴えていかねばならず、気候変動を訴えるシンボルとしてシロクマを採用しようという動きがある。北極圏の北の端バロウ(ウキアビックと改名)という町で会議を開催し、気候変動対策の重要性を世界に発信していこうとしています。



2020年12月 講演の舞台活花



活花は季節に合わせて舞台を飾っています。


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