第8回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
2019年(平成31年)1月17日

星と宇宙と私たち
〜めぐる宇宙の不思議〜




自然教育事務所 宙 代表
田島 由起子 氏

講演要旨
     永遠に変わらぬように見える宇宙の星々も、長い長い時間の中で見ると、生きもののように生まれ、育ち、老い、死んでいきます。そんな星たちのさまざまな姿を紹介し、地球という宇宙の片隅に棲む私たちと、星や宇宙とのつながりについてお話しします。
 
   

はじめに
 今ご紹介いただきました田島由起子と申します。今日は90分ほどお話をこれからさせていただきたいと思います。紹介していただきましたように河内長野市から来ております。河内長野でも本当に山に近いところで、星を見ながら育ってきました。今日は、いろんなお話ができたらなと思っております。
 これは大阪の狭山池のあたりで今夜星空を見たらどんな風に見えるか再現しているものですけど、月があるそばで光っているのが、牡牛座の一等星です。名前はアルデバラン。赤色が結構特徴的な星です。そしてこっちの方に見えているのが火星になります。今日の夜、火星がいち早く光るのじゃないかなと思います。火星は去年の夏に地球に非常に近くなってとても明るく見えたのですが、それから半年経ちますが、まだまだ見えているんですね。
 それから、東の方へいくともっとたくさんの星が見えてきます。これがオリオン座の星たちです。とても明るい星です。そして双子座の二つの星がこんなふうにあって、もうちょっと時間が経つと、さらに明るい星が北から東の地平線から上がってきます。地球から見て一番明るい星がこの星です、名前をシリウスと言います。日本では大きく明るく見えるので大星と呼ばれたりしていました。そしてここにあるのがプロキオン。シリウスも白いんですけれども、この星も白いので日本では白星という風に呼ばれていました。
 オリオン座の形は、皆さんどこかで見られたことがあるかと思います。西洋ではこの形、オリオンという狩人の姿に見立てられているんですが、日本では鼓の形に似ているということで、鼓星と呼ばれたりしていました。そしてこっちが、さっき言った双子座。二人の人が並んで肩組んでるような、双子が並んでるようなイメージなんですが、この二つ並んでいる星はいろんな国で 双子に見立てられていて、日本でも双子とか兄弟のイメージでとらえられ、五郎十郎星とよばれたりしました。こっちの星がオレンジ色でこっちが白っぽいので、金星・銀星というふうに名前がついたりもしていました。星座というのは、身近なところで親しまれていました。

人類はなぜ星を観察したか
 数千年も前から人々は星を見上げていたようですが、何でそんなに色々観察していたんでしょうか。
 今日の夜、どんな風に星が動くのかちょっと見てください。こう見ていると、太陽が動いて行くのと同じように、星も東から昇って南の空を通って西の方に沈んでいく、この動きをするんですね。この動きがとても重要だったわけです。この動きを見ていると時間とともに星が動いていくで、星が動いて行くのを見て、どれぐらい時間が経ったか分かったわけです。昔は時計がありませんでしたので、夜は星を見て時間の経過を知ることができたわけです。
 お月さんも動いていきますけど、お月さんは毎日形が変わるので、どんどん日にちが変わっているなということが分かります。お月さんは29.5日で元の形に戻ってきますので、世界中で29日か30日とかいうサイクルがひとつの単位、日にちのまとまりの単位になっていきました。どこの国でもだいたい30日が1ヶ月っていうまとまりができました。星の場合は、もっと長い時間が経つと同じところにまた戻ってくるということで、このサイクルが一年です。一年のサイクルっていうのが分かるようになったんです。このサイクルを見ることによって1年というスケールが分かってきました。星を見るということは日付を知るっていうこと、そして時間が進んでいくっていうこと、一年のサイクルを知るっていうカレンダーの役割を果たしてくれるわけです。ですから、昔から人々は一生懸命星を観察していたわけなんです。
 なんでそんなに日付が必要だったのか、一年のサイクルがわかるということは、季節の移り変わりがわかることになります。冬だったらこんな感じで見える、春になったらまた違う星が見えてくる、夏になったら天の川とかが見えてくる、そんなサイクルで季節が分かります。季節が分かるというのは農業をするために重要だったんですね。
 もうひとつ、北の空の星の動きに注目してみます。こういう風に動いていくんですが、全体的に回転していますね。その中で一つだけ動かない星があります。この星ですね、北極星と言います。なぜ北極星というのか、北極に行けば頭の真上で光るからなんです。日本はだいぶ南の方ですので、頭の上からだいぶ下の方になる、狭山池あたりだとだいたい35°ぐらいの高さですが、北極星が光っている高さを測ると、その場所の緯度がわかるのです。日本は南北に長いですから、 北海道に行くとこの北極星は40°くらいの高さになります。沖縄に行くと30°以下のところに移ります。北極星の高さを知ることによって、どれぐらい南北に移動したか分かるのです。さらに、時間が経っても季節が変わっても、ずっと北の空で光っていますので、方角の目印になります。この星を見つけることができれば、暗い夜でも自分がどこに向かっているのか、海の上であっても分かるということで、船の航海では非常に重要な星でした。もちろん陸地でも役に立ちます。北極星は方角の指針になったのです。

望遠鏡の発明
 
星座は4〜5千年前につくられ始めたと言われていますが、いろんな国、それぞれの地域で、文化や風土に根ざした形で伝えられてきています。星というのはどの地域においても、とても身近であり、とても大切だったんだろう思います。ただ昔はこうやって、名前をつけて位置の変化を見ていくだけでした。
 約400年前に、望遠鏡が発明されました。まだ400年しか経ってないんですね。5千年前ぐらいから星座を作ったりしていましたが、 400年前に望遠鏡が発明されて、ようやく星についていろんなことがわかってきました。そして科学の発展とともに、星の性質というものが分かってきました。特に発展したのがこの100年ぐらいなんです。今日はそこらあたりにも注目して、お話をしたといと思います。

星の特徴
 これ、とても綺麗な星の写真ですけれども、ハップル宇宙望遠鏡で撮られたものです。アメリカが宇宙に打ち上げた望遠鏡です。宇宙に打ち上げると、非常に綺麗な写真が撮れます。なぜかと言うと空気がないからです。空気があるとどうしても、空気の揺らぎによってなかなか細かいところがぼやけてしまう。拡大できないところがあったんですが、宇宙に打ち上げた望遠鏡ではこれだけの綺麗な写真が撮れるんです。
 これは天の川の中にある星団の一部を撮ったものです。本当に綺麗ですね。本当に宝石箱って言いたくなるようなそんな星々の姿です。この中に、明るい星とそうでない星があるのが分かると思います。明るい星が目立っています。この辺りはちょっと暗めですが、数はものすごくありますね。星団というぐらいですので、これらの星々は集まっていて、ほぼ同じ場所にあります。地球からほぼ同じ距離にあるんですが、暗い星と明るい星があるのです。星のでき方として、暗いものと明るいものがあるということになります。
 一方、私たちが夜空見上げただけでは感じられないですが、実際には夜空には奥行きがあり、近い星と遠い星があります。
 さっき見ていた星空の、これがオリオン座で、そしてこれがシリウスです。シリウスはとても近い星なんです。距離で8光年ぐらい。8光年というのは、宇宙の中ではとても近いです。近いと言っても8光年ですので、光のスピードで8年ぐらいかかる距離ということになります。私たちの感覚で言うと本当に長い距離に感じますが、宇宙の中ではとっても近いです。ですから、シリウスはとても明るいんです。
 一方、オリオン座のここにある星、赤い星がベテルギウス、白い星がリゲルと呼ばれます。赤い星と白い星がセットになっているので、昔の人は源平合戦の旗色に見立てて源氏星、平家星と呼んだりしていました。この赤い方の平家星、これは距離にしてだいたい640光年ぐらいと言われています。8光年に比べるとだいぶ遠いですね。同じ距離に置くと本当はベテルギウスの方が明るいのですが、見た目はシリウスよりちょっと暗め。距離によって星は明るさが変わってくるのです。
 もう一つ言えるのは、赤い星があれば白っぽい星もある。これなんかオレンジ色ですね。この下の方の星はちょっと青っぽい感じがしますね。ちっちゃい星はだいたい黄色っぽく見えます。こんなふうに、星にはいろんな色があるっていうのも特徴です。写真を撮ったら色がよくわかるんですが、皆さんの目で見ていただいても、よく見たら分かります。今度星を見るときは、どんな色をしているかなというところに注目して見てください。赤い色は特に特徴的でわかりやすいです。
 なんでそんな色の違いが出てくるのか、昔はよくわかりませんでした。けれども今は、星がどうやって光っているのかが分かってきたので、そこから色がどうして生まれるのかが分かってきました。星の色の違いは、星の表面の温度の違いだったのです。
 この白い星が熱いんです。私達が絵に描くときは暖かいものを赤で描いたりしますが、星では逆でして、赤い星は一番温度が低いということがわかっています。低いと言っても3,000度くらいはありますので、十分熱いんですけれども、星の中では熱くないんです。これに対してこの白い星は10,000度くらいありますから、かなり熱い星です。オレンジ色の星は赤よりちょっと熱い4,000度くらいと言われます。黄色い星で大体6,000度ぐらい、そして青い星が実は一番熱くて30,000度近くあると考えられています。
 星が光っている。これも謎でした。どうやって光っているのか不思議で仕方がなかったんです。私たちは太陽があれば暖かいなって感じられますから、星からエネルギーが来ているなということはわかります。でもそのエネルギーの源は一体何なのか、どうやってこの熱を生み出しているのかは非常に謎だったんです。100年ぐらい前にようやく分かってきました。何かと言いますと、核の力です。
 現在、私たちは電気の源として原子力発電というもの使っています。原子力発電のエネルギーはどうやってとり出しているのかと言いますと、ウランという重たい原子が分裂する時にわずかに質量がなくなってしまうのですが、その質量がエネルギーに変わり、その核エネルギーを私たちは熱エネルギーとして取り出して電気エネルギーにしているのです。それと同じことが、この星の中でも起こっていると考えるならば、説明がつくことに気づいたのです。
 太陽も他の星も、ほとんど水素でできているということが分かっています。星の中心で水素が合体して、そしてヘリウムというものに変わっていった時にわずかに質量が失われ、エネルギーがものすごく生まれることが分かってきました。原子核の物理がわかってきた時に、科学者が飛びついたアイデアだったんです。現在は、星が輝きエネルギーを出すしくみとしてこれ以外に説明はつかないということで、核の分裂ではなくて核の融合反応ですが、それで星は光っていると考えられています。
 星が輝くしくみはどんな星であっても一緒だと考えると、星の中心で熱が生まれ、その熱がどういう風に星の表面に伝わっていくのか、みんな同じしくみだと考えると、星の表面の温度が違えば、色の違いが出ることが説明できます。つまり星の色を見れば、星の表面の熱さがわかることになります。皆さんの目で見ても、赤と白ぐらいはわかりますので、ぜひ見てください。今の季節よく見えるオリオン座のあたりは、夜空の中でも一番たくさん明るい星がある場所です。地球から見える星空の中で、一番豪華な場所になりますので、これから春にかけての間はぜひぜひ空を見上げていただければと思います 。

星の運命
 さっきの写真の星々、これは太陽の仲間の星なんですが、この星たちはずっとこのまま光っているのかというと、そうではないんです。特にこの明るい星たちというのは、なぜ明るいのかというと、とても大きくて、材料がたくさんあってぎゅっとガスが集まっていて、真ん中はすごく圧力が高くなっています。小さな星より大きな星の方が真ん中の圧力がとても高くなりますので、とても温度が高くなるんです。エネルギーをたくさん出して熱い星になります。ですからこの写真で見て、白っぽい星とか青っぽい星というのは、とても大きく産まれているんです。星というのは生まれる時、大きく重く生まれるのか、小さく軽く生まれるかで結構な運命の違いがあります。どう違うかというと、一生の長さが全然違うんです。大きく生まれると、数千万年ぐらいで死んでしまいます。一方軽く生まれると100億年以上生きると言われます。全然長さが違うんです。
 ベテルギウスは、直径で言うと太陽の千倍以上あるような、それぐらい大きくな星です。太陽よりはるかに大きく生まれた星なんですけれども、こういう星は、真ん中でエネルギーをガンガンに燃やして数千万年経つと、非常に大きな爆発を起こします。ある星の爆発の前後を写真で比べます。この星、こんな小さな星ですが、爆発するとこれぐらい明るくなる。めちゃめちゃ明るい、非常に激しい状態です。こんなことが、大きな星の場合は最後に起こるだろうと考えられています。
 ベテルギウスもやがて同じように大爆発を起こすだろうと考えられています。どれくらい地球から見て明るくなるのか、ベテルギウスはここにひとつの明るめの星として光っていますけれども、もしこの星が爆発したら、月ぐらい明るくなるだろうと言われています。今夜、是非見てください。ベテルギウスと月、ちょうど近くに並んでいますので、この小さく見える星が、月ぐらい明るくなる。それぐらい激しい爆発が最後には起こると考えられるんです。
 この写真は、ある星が爆発した千年後の姿だとわかっています。かに星雲と呼ばれているものなんですが、これ千年前に星が爆発した姿なのです。なんで千年前に爆発したとわかるかと言うと、実は日本と中国に記録が残っていました。夜空で何も見えてないところにいきなり星がぱっと光だすっていう現象が、昔から知られていたんですね。日本とか中国っていうのは、暦を作ること以外にも星を見る目的がありました。天に異変があったら地上でも同じように異変があると捉えられていたんです。西洋の場合、星座というのは神話と結びつけられていて、神様の世界を空に映し込んでいたのですけれども、中国とか日本は、地上と天が繋がっていると考えていました。だから天で何か起こると地上でも何か起こるはずだっていうことで、常にチェックしていました。天の異変を事細かに記録し続けていたのが、中国とか日本だったんです。その記録の中に、星が突然夜空に現れたというものがありました。その記録の場所を見てみると、今このかに星雲があるんです。その記録は1054年にここに星が現れたって書いていますので、ちょうど千年前この星は爆発したんだということになるわけなんです。星雲の真ん中に小さな星が残っているんですけれど、大爆発してほとんどが吹っ飛んでしまった状態です。重たく生まれた星というのはこんな風に大爆発しておしまいになるということが、夜空を見ているとわかります。こういう爆発のことを、今は超新星と言います。
 これはもともとは西洋での言い方ですが、昔は夜空にいきなり星が現れたと思ったから、新しい星だと思って新星と呼び、特に明るいものを超新星といいました。「超、新しい星」と書きます。別に新しくないんですが。こういう星は、しばらくは明るいんですが、だんだん暗くなってやがて見えなくなります。この1054年の超新星だと、だいたい2年ぐらい明るかったと言われています。けれどそのうち見えなくなってしまいました。この超新星、近代になって実は新しく星が生まれたんではなく、星が死んだ瞬間だったということが分かってきました。

中性子星・ブラックホール
 中性子星、あまり聞かないかなと思います。中性子って言葉を皆さん聞かれたことありますか。
 元素の中ってどうなっているのか。私たちの身近にある水を例にとると、 水っていうのは拡大していくと水分子が集まっています。水分子は何でできているのかというと、Hが2個と O が1個なんですね。酸素と水素が2個くっついている。そんな分子が水の元になっています。この酸素に注目します。酸素をさらに拡大していくと、真ん中に原子核っていうものがあり、周りに電子っていうものがくるくる回っています。この原子核をさらに拡大すると、そこには陽子と中性子が集まって原子核はできています。この陽子と中性子の集まり、この数の違いでいろんな元素が生まれているということが分かっています。全ての元素は、この陽子とそれから中性子の数の違いから生まれてきています。この中性子だけがぎゅっと集まってできている星が、中性子星と呼ばれるものです。ものすごく密度が高くて、すごく小さな星です。どれぐらいの密度かというと、小さなサイコロ一個の重さがエベレストの山一個に相当する。めちゃめちゃ重たいんです。星の大きさとしては、大阪狭山市よりちょっと大きいぐらいの球体、その中が全て中性子になっているっていうのが、中性子星と呼ばれるものなのです。非常に小さくて密度が高くて、めちゃめちゃ重たい星というのが、このかに星雲の中で生まれています。ブラックホールっていうのは、さらにもっとぎゅっと詰まっていて、中性子星ならまだ光を出すんですけれども、ブラックホールはもっとぎゅっと詰まって密度が高く、そこから光も出てこられないくらい強い重力をもつ天体です。学者もまだブラックホールそのものは見たことはないのですが、ブラックホールがある証拠は掴んでいます。そんなにも小さくて重たい星が、超新星爆発の後には生まれるのです。太陽より8倍以上ぐらい重たい星として生まれると、最後にこんな風に大爆発することが分かっています。
 皆さん、あの太陽の見かけの大きさってどれくらいですか。実はこうやって手を伸ばして小指で隠れるぐらいの大きさなんです。意外に小さいですね。想像以上に大きく思っていると思います。でも実際には見かけのは小指で隠れてしまうぐらいの大きさなのです。五円玉の穴でちょうどぐらいといわれます。もう一つ比べられるのは満月です。満月と太陽の見かけの大きさはほぼ一緒です。皆既日食っていうのはお月さんが完全に太陽を隠します。だから月の方がちょっと太陽より大きく見えるんですが、金環食の時は太陽のふちだけ見えて、真ん中に月がすっぽり入るような状態になったわけです。月が近くにある時には月が大きく見えます。月がちょっと遠くになると小さく見えます。太陽の方も地球と太陽の距離がわずかに変化しますので、その巡り合わせによって金環食になったり皆既日食になったりしますが、ほぼ一緒なんです。地球から月の距離と、地球から太陽の距離は400倍ぐらい違うんですが、月と太陽の大きさもちょうど400倍ぐらい違うので、偶然にも見かけの大きさは一緒なんです。
 太陽はいま50億歳くらいと考えられていますが、あと50億年ぐらい経つと死を迎えます。爆発はしませんが、ガスのほとんどが周辺に流れ出ていき、そのときに地球もそのガスに飲み込まれていって、太陽と共に死を迎えると考えられます。100億歳くらいで死をむかえるということです。太陽より小さく生まれた星はもうちょっと長生きするようです。宇宙の年齢が今138億年と言われていますので、小さく生まれた星の中には、生まれてからまだ一度も死んだことがない星が宇宙にはあると思われます。まだ見つかっていないんですが。太陽の場合は宇宙が始まって80億年ぐらいして生まれた星ということになりますので、宇宙で最初に生まれた星ではないんです。大きな星は数千万年で死んでしまいますので、何回も星が生まれたり死んだりということが、宇宙では繰り返されているということになります。

星の誕生
 
星が死んでいくばかりだったら、今こんなに星があるとは考えられませんので、星が生まれている場所っていうのもあるはずだ、ということで調べていくと、やっぱりちゃんとあるんです。どんなところかと言いますと、さっきのオリオン座のところなんです。拡大してみると、これがベテルギウス、もう少しで死んでしまいそうな星です。オリオン座のここのところ、ここ三つの星が並んでいて三つ星と呼ばれるところなんですが、その下に小三ツ星と呼ばれるところがあります。肉眼では小さな星が三つ並んでいるように見えるんですけれど、真ん中はよく見るとちょっともやっとしています。ガスを纏っているんですね。そこを拡大するとこんな感じになります。なんか鳳凰が飛んでいるような感じですね。非常に綺麗なガスで、オリオン大星雲と呼ばれています。この中の特に明るい場所、ここのところをさらに拡大した写真がこれです。ハッブル宇宙望遠鏡で撮ったものですが、ここのところに四つほど明るいものが光っています。これがまさしく生まれたばかりの星です。星の赤ちゃん、人間に例えると保育器の中の赤ちゃんみたいな、生まれたばかりの星です。このガスの中では他にもまだまだたくさんの星がどんどん今生まれつつあるところでして、ほぼ同時に生まれてきます。まだ生まれてないのに同時というのも 変ですけれども、宇宙の感覚で言うとほぼ同時です。この星たちは星の集団として、これから成長していきます。
 ガスが集まって星が生まれてくるところは、他にもいっぱいあります。この写真のガスのとても濃いところ、不透明で向こうが見えないんですけれども、このガスの中でいま星が生まれて、光を出し始めています。星が生まれてすぐは単なるガスの集まりです。ほとんどが水素でできているガスなんですが、最初はゆるく集まっています。いっぱい集まり始めると、どんどん自分の重力で縮まる力が働いてきますので、小さくまとまっていくのです。小さくなっていくときに、温度が上がっていきます。ポンプのそれと同じように、星の場合もぎゅっと圧縮していくと最初は熱くなるだけなんですが、そのうちどんどん温度が上がっていき、中心が一千万度くらいになると核融合が始まります。そして輝きはじめ、どんどんエネルギーを外に出しはじめます。それが今ここの中で起こりつつあります。核融合が始まりますと、とても強い光を出しますので、その強い光で周りのガスがどんどん蒸発し、周りのガスがどんどん晴れいきます。そうしてガスがなくなると、真ん中に光っている生まれたての星が見えてくるだろうと考えられます。
 星が生まれそうなところは他にもありまして、この写真なんかがそうですね。このガスの中でどんどん今星が生まれているところです。とても綺麗です。
 アルマ望遠鏡という、世界各国が協力してチリの砂漠に作った電波望遠鏡があります。視力で言うとアルマ望遠鏡はなんと6,000と言われます。それぐらい視力が良くなると、宇宙で今星が生まれつつあるところが見えてくるんです。この写真はアルマ望遠鏡で捉えたものなんですが、今ここに二つ明るいところがあります。これは太陽みたいな星が同時に二つ生まれようとしているところです。私たちの住んでいる太陽系では自分で光っている星は太陽だけで、周りはみんな惑星で太陽の周りを回る自分で光らない星たちなんですが、宇宙ではこんなふうに、ひとつだけ星が光って周りに惑星があるっていうパターンは少ない方かもしれません。こんなふうに太陽みたいな星が二つ以上一緒になって、お互いにこうぐるぐる回りあうっていうのが、結構たくさん見つかっています。映画スターウォーズの最初の作品に、太陽が二つ沈んでいくシーンっていうのがあるんですけれども、実際に有り得る話なのです。太陽系が別にスタンダードではないということです。
 星が集団で光っている有名な写真はこれですね。明るい星が6〜7個ぐらい光っています。日本ではこれ六連星(むつらぼし)と呼ばれたりもしますが、有名な名前ではすばると呼ばれているものです。日本人は本当に好きで、その名前はいろんなものについています。歌のタイトルにもありましたし、それから自動車にもありますね、あのスバル自動車は星のマークがついています。望遠鏡にもすばる望遠鏡と名付けられています。千年前の枕草子というエッセイにも出てきます。千年前の日本人も、このすばるを見上げて美しいなと思っていたわけです。目で見ると7個くらい星を見ることができるんですが、望遠鏡、双眼鏡で観察すると、ここはだいたい100個ぐらいの星が同時に生まれて集団を作っていることが分かります。星が散らばっていながらも星団をつくっているので、散開星団と言います。

星を生むガスは一体どこから?
 
宇宙の中に漂っているガス。そのガスはどこから来ているのか。ひとつはあの超新星の大爆発が起きて散らばったガスです。かに星雲のガスは現在でも広がっています。ものすごいスピードで広がっているので、まだ落ち着くには当分時間がかかるんですが、やがてそのガスが落ち着いてくると、その中のガスの濃いところでまた、新たに星が生まれると考えられます。爆発しようが徐々にガスを出そうが、宇宙の中で星が死を迎えると、それは次の星の卵になるということなんです。
 だから46億年前に太陽と一緒に地球も生まれたわけなんですけれども、私たち自身も宇宙の中で広がっていたガスが集まって、それがもとになって生まれたと考えられます。
 太陽は宇宙の一番最初の星ではありません。宇宙が始まって80億年経つまでに、何回も何回も星が生まれて死んで、その星々が撒き散らしたガスが集まって生まれたと考えられています。宇宙が始まった時に最初にあったもの、それはほとんど水素だったと考えられます。最初にできたのは水素、そしてちょっとのヘリウムと考えられています。元素表で言うと一番軽い水素とヘリウムなんですね。水素が最初にできて、ヘリウムがちょっとできて、リチウムまでは宇宙が生まれた時にできたというふうに考えられますが、それよりも重たい元素は、その後、星の中でしか作り得ないと考えられます。星の中で核融合が起こることで、これ以外の元素たちは生まれたと考えられるのです。太陽みたいな星の場合は、水素のあとヘリウムを作って、ヘリウムを作ったらもうそれでおしまいで、この写真のようにガスをで出して死んでいくだろうと想像されます。太陽より3〜4倍重たい星になってくると、水素・ヘリウム作った後、ベリリウムとかホウ素とか、それから炭素や窒素、酸素、こういったものを星の中の核融合で作ると考えられます。もっと重たい星になってくるとフッ素とかネオン、さらに重たい星になってくると鉄まで、核融合しながら、輝きながら作ることができると考えられます。

私たちの身体は何から?どこから?
 
私たちの世界を考えて下さい。皆さんの身体は何でできているでしょうか。人間の身体というのは6割方が酸素、そして炭素と水素、これでほとんどいっぱいです。そのほか窒素とかカルシウムも身体の中にはありますが、少量でも必要なもので言うと、鉄やケイ素などもあります。セレンはとても重たい元素ですけれど、そんな重たいものも人間の体には必要なものとして取り込まれています。でもこれらは宇宙に最初はなかったものです。水素とヘリウム、リチウム以外のものは全て星の中の核融合でしか作られないものですから、つまり星が作り出したものが、私たちの身体の元になっているということになります。
 ただ鉄より重たい元素も私たちの身体には必要ですから、最初の星が燃えつきただけでは私たちは出来ないのです。それらができる瞬間が、あの激しい超新星の大爆発です。超新星爆発の瞬間にだけ、鉄より重たいものを作ることができるとわかっています。
 星は、輝くときはエネルギーを出していますが、鉄より重たいものを核融合で作るには逆にエネルギーが必要で、鉄より重いものを作りながら輝くことはできないのです。鉄を作ろうとするところまで行ったら、核融合で星の中心から出てきていたエネルギーがなくなるので、外へ向かう力がなくなり、すると星自身を支えることができなくなり、重力で一気にぐしゃっと潰れるのです。中心に向かって潰れていきますが、そこには物質が集まっているので、潰れる限界にくると今度はバンと跳ね返されて、これが星の爆発ということになるわけです。その瞬間は非常に圧力が高い状態になりますので、この一瞬にだけものすごく過酷な状況ができ、エネルギーをそこに費やして多くの元素を作ることが分かってきました。
 過去に宇宙で星の大爆発が起こらない限り、私たちの身体に鉄より重たい元素が入ることはないのです。私たちの身体は星の爆発のかけらからできているのです。
 私達の周りを見渡せば、もっと重たい元素がたくさんあります。わかりやすいもので金、ウラン、水銀とかですね。一昔前までは、こんな重たい金属も超新星爆発の中で作られるのだと思われていたんですが、それではできないことが最近わかってきました。中性子星が二つ、お互いに回りあってぐしゃっと潰れるということが起こった瞬間であれば、可能であると考えられるようになってきました。単なる爆発ではないんですね。中性子がぐしゃっと潰れるのは非常に激しい現象で、そんなことが実際に起こっていることを、つい最近までは確認もできていなかったのです。
 でも単に星が爆発するだけではなく、中性子同士がぶつかって重たい元素を作るというような現象も起こっていないと、今現在私たちのこの地球にこれだけの元素があることの説明がつきません。だから私たちの太陽が生まれるまでの80億年の間に、何度も何度も星が爆発したり合体したりっていうことを繰り返した末に、ようやく太陽が生まれ、その周りに地球も生まれたのです。地球の中でも生命が生まれたのは30億年ぐらい前ですか、地球が生まれても10億年ぐらいは何もなかったわけですね。その中で人類が出てきたのは最近100万年ぐらいのものです。宇宙の歴史の中の、ほんの一瞬です。私たちはその一瞬に生まれてきた存在なんです。私たちの身体やこの地面、地球そのものが、実は星の欠片の集まりなのです。
 日本人は死んだら土に帰るという思想がありますね。でも土に還っていくということだけではなくて、地球はやがて、大爆発ではないにしろ宇宙のガスとして太陽のガスと一緒に広がっていきます。そのガスがまた次の星の卵になっていくわけですから、私たちはそのまま消えてなくなるわけではなく、土に還っていくのと同じように、太陽と地球と一緒に宇宙に還っていくのです。私たちは星のかけらから生まれ、また星に戻っていくという大きなサイクルの中にいるわけです。

おわりに
 今日の話の中でお伝えしたいと思っていたことは、星というのは手が届かないものと感じられますが、実際は私たちは星のかけらから生まれて、星がなければ生まれてきませんでしたし、私たちは地球に還っていくだけではなくて宇宙全体に還っていく存在なのだということ。そして、やがてまた次の星の卵になるんだという意味で、大きなスケールの時間の中で、空間スケールの中でつながっているのだということ。それを知っていただければと思いました。今日の話を頭の隅に置いていただいて、ちょっと違った感じで星を見上げていただければと思います。