第9回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成24年2月16日
「東南アジアと日本」
〜変貌する地域協力の構図〜




毎日新聞社大阪本社編集部 論説委員
藤田 悟 氏


 

講演要旨

東南アジア諸国連合(ASEAN)は2015年を目標に共同体計画を進めています。
一方、日本、中国、朝鮮半島の北東アジアではぎくしゃくした関係が続きます。
いかにアジアの協力関係を構築すべきかを考えます。

 

 はじめに
 毎日新聞の藤田と申します。入社以来記者として28年になります、最初は日本の事件、行政、経済を担当してましたが、毎日新聞も世界中に支局があり、1995年からマニラに5年、バンコクに5年半駐在し、東南アジアの出来事を取材してきました。今日は講演テーマをプロジェクターを使いながら東南アジアの諸国がどういう風に動いていて、又どういう風に変化しているかの内容を紹介しながら説明をさせて頂き、今、日本は大変な震災と少子高齢化等で元気がない思われてますが、これから日本が東南アジアとどういう関係を作って新しいアジア築いていけばよいかお話させて頂きます。

東南アジア地域での近年の政変と政治的変化
 写真をみて頂きますと、東南アジア地域はフィリピン、インドネシア(人口2億を超す最大国)マレーシア、ブルネイ、シンガポール、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミヤンマー、タイの10ヶ国で東南アジア諸国連合を結成してます。
 東南アジアの国の何枚かの写真を見て頂きましたが、どの国も経済的に恵まれてませんが、表情は子供の様に豊かな笑顔で元気で活気に満ちています。
 1998年にインドネシアで政変がおきました、これは1997年にアジア経済危機という東南アジア、韓国で通貨価値が下落し経済危機に陥る出来事があり、その影響を一番被ったのがインドネシアで、通貨価値が1/5までになり(ドルベース)物価が急激に上昇し国民生活が悪化し政府への不満が高まり、インドネシア大学の学生中心に反政府デモが起こり、スハルト大統領の辞任要求がでた。反政府デモの規模が徐々に大きくなり「リフォーマシ―」(改革)というスローガンを掲げて半年後国会を学生が占拠。ついに30年も独裁政権を続けてきたスハルト大統領も辞任せざるを得ない結果となった。
 フィリピンは2000年に映画俳優出身のエストラダ大統領が不正献金を受けていたという事が発覚、それに対する反政府デモが活発化し大統領辞任を要求していたデモの人数が増加して行く中、副大統領や国軍の司令官達もデモの集会に参加し、2001年に大統領辞任に結びついた。この時に特徴的であったのは比較的若い人たちが政権批判をして政権交代をさせたことです。
 これは「ピープルパワー」と呼ばれた1986年にマルコス大統領に対して行われた辞任要求で大統領がハワイに亡命したことにかんがみ「ピープルパワー2」と呼ばれています。フィリピンでは15年の間に市民の力で政権打倒というが起こりました。
 タイは、2001年に経済力を持つ力のある政治家タクシン政権が発足し、徐々に強権化していましたが、2006年に通信会社の株をシンガポールの会社に売却した事から、国民批判が高まり、売国的ではないかと都市部の学生中心に反政府デモが活発化し、9月に軍の無血クーデターで崩壊した。
 以上3つの国の政変の共通要素は、独裁的政権か政権が腐敗したりする事に市民による政府批判運動−特に学生、都市住民が政権交代運動−という特徴があります。しかし東南アジアを日本からみると、経済的、社会保障などで未熟の面があるが、社会、経済の発展と並行して市民の政治的意識を高めて政治改革につなげる大きな流れの渦中にある。
 次に、ここ10年軍事的独裁政権が続いたミャンマーでも大きな出来事が起きている。すなはち2010年11月に20年ぶりの総選挙実施、スーチーさんの自宅軟禁解除、2011年2月に軍出身のテインセイン大統領選出、3月新政権移行(軍政―民政)、8月以降様々な改革を発表−スーチーさんとの対話、メディア改革、政治犯の釈放と柔軟な対策を取ってきている。ミャンマーに対する国際社会の対応―改革の状況を見て、日本のODAの再開を表明、アセアンの議長国就任を認可、米国クリントン国務長官の訪問(56年ぶりで経済制裁の一部解除)等をゆるやかに対応をし始めている。

ミャンマー政府(軍から民への)の思惑
 国際社会が(特に欧米諸国)制裁をしてきたのを、経済制裁の解除により外貨導入で経済発展を望んでいく。その状況を受けてスーチーさんも政治参加への姿勢で国を盛り上げる事等前向きな動きはありますが、まだ、問題点があり、少数民族組織との和解、難民の帰国問題、貧困、経済問題、憲法の改正、民主的な選挙等があり、2015年に行われる総選挙ではスーチーさんも国会議員として政治活動をして徐々に民主化を進めていくことになるであろう。
 今まで数カ国の動きを紹介しましたが、ここ10数年東南アジア諸国は政治的に大きな変革期にあると言えます。
 ここで、テーマを変えて東南アジア諸国連合がどういうもので、どういう動きをしているかをお話したいと思います。1967年に当初5ヶ国(タイ、シンガポール、フィリピン、インドネシアマレーシア)でスタートし1999年に10ヶ国体制を実現、1980年後半以降は平均5%前後の成長率をここ20年位すさまじい経済成長を遂げ、貿易額も20年で10倍に膨らんでます。そして、アセアンの特徴と言いますと2015年に「ASEAN共同体」という10ヶ国で共同体として生まれ変わらせようとしている。 「ASEAN共同体」とは共同体の代表的なEUにならって国として、体制を維持しつつ政治的、社会的にも一体化して大きな連合体に生まれ変わろうとしている。
2015年に共同体として生まれ変われば人口が約6億人の大市場になります。
 アセアン協力体がどういう歴史をたどってきたかというと、1967年に5ヶ国でスタートし、75年にベトナム戦争終結、84年ブルネイが加盟、95年にベトナム、97年にラオス、ミャンマーと社会主義の3ヵ国が、そして99年4月にカンボジアが加盟し域内10ヶ国となり協力体から共同体への合意がなされた。
 その後アセアンの周辺の国々にも協力を進めるという事でアセアンプラス3(日、中、韓)という13ヶ国で1997年に首脳会議を開き、その後も毎年開催されている。2005年にアセアン諸国を中心に東アジアサミットが計16ヶ国(日、中、韓、インド、オーストラリア、ニュージランド)の首脳で開催され、その後も継続されている。
 2020年に目標としていた共同体創設を、5年繰り上げ、2015年に構築するという共同宣言が2007年に発表され、アセアン憲章も採択された。

アセアンのデータ(2009年)
 面積:448平方キロ 【 日本の12倍】
 人口:5億8,000万人 【日本の約4.6倍】 EUは5億人
 GDP:1兆4,854億ドル 【日本の3割】
 1人当たりGDP:2557ドル 【日本の6.4%】
 貿易額:1兆6,000億ドル 【日本の1.4倍】 EUは15兆ドル】

アセアンの特徴
 10ヶ国の内実をみると、共同体といえども政治的にも経済的にも格差がある。
政治的な体制でみると
 民主的国家:インドネシア、フィリピン、タイ、カンボジア
 管理された民主主義国家::マレーシア、シンガポール
 社会主義国家:ラオス、ベトナム
 軍事独裁からの脱皮国家:ミャンマー
経済的な面(1人当たりGDP)では
 大きい国:シンガポール 3万6,637ドル、マレーシア 7,000ドル
 小さい国:ミャンマー 499ドル、カンボジア 677ドル
 シンガポールとミヤンマーと比較すると実に65倍の格差があるのが現状です。

アセアンと国際社会
 アセアンはアジアの地域協力を主張して「対立より協調」を基本的理念として共に発展をして行こうとしている。そこで日、中、韓を引き入れた地域主体の様々な国際会議の枠組みをアセアンが中心になって作っている。
 東アジアの構図は、経済は日中韓の北地域、地域協力はアセアンの南の国々がリードしているのが実情である。

日本にとってのアセアンはどういう意味をもつか
 アセアンの貿易額
 域内輸出、輸入とも相手国は日本、中国、米国が主体で重要な位置にあり、日本からの貿易額でみると相手国は中国が1番で2番にアセアンがある。
 投資額は日本が最大のパートナーとなってきている。逆に、アセアンからの輸入商品は、エビ65%パイナップル97%、天然ガス50%、眼鏡のレンズ78%、と日本人の暮らしには欠かせない物が入ってきている。
 そういう時代で東アジアでの政治的動きをみると、2008年の金融危機(リーマンショック)以降中国の経済力が飛躍的に高まり、中国の国際的役割が増大する一方、日本の存在感、外交力が非常に相対的に低下している中、沖縄の米軍基地の対応のまずさから米国からみても中国を意識するという時代になりつつある中で東アジア共同体構想が論議されている。これは、アセアンと日中韓を基本により広い共同体を作ろうという事ですが、共同体が先行するEUと比較してみると欧州石炭鉄鋼共同体は40年かかって出来たもので、アジアが作ろうと思っても宗教、文化の多様、経済格差の問題あって難しいのだが、日中韓がいかに協力していくかが課題で大きな鍵をにぎる。
 一方、地域協力の構造でいうと、東アジアの協力とは別に、TPP(環太平洋経済連携協定)というアジアだけでなく太平洋を取り巻く国々(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュウジランド、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、米国)と日本、メキシコ、カナダ等の参加表明国を加えた国々で協力していこうという発想があり、これに対して中国は東アジアに対しては経済協力はマイナスであると米国が参加する枠組みに反発しているが、今後東アジアとTPPの国々の2つの枠組みの動向が注目される。

アセアンと日本
 2008年に外務省がシンガポールの調査機関に依頼した対日世論調査で、アセアンの人達は日本をどう思っているかの意識調査の結果です。
 1)日本との関係
  肯定的(信頼、友好)イメージが9割以上で定着
 2)アセアンの重要なパートナー
  現在は日本、中国、米国が主体ですが今後は中国の発展、影響力をみてアセアンは同国を重視。
対日調査では、日本に対して肯定的イメージを持っていて、特に高い科学技術、経済力、文化、自然、生活スタイル(アニメ、ファツション、日本食等)に多くの人が興味を持っているが、一方、中国の経済的、政治的な影響力が出てきており日本も微妙な位置になりつつある。アセアンとして日中韓をどうみているかというと、地域の安定でバランスの良い関係を取りながら維持していきたいので日中の対立は困るわけです。その中でタイの外務省高官は「アジアで最も安定した民主国家である日本の役割に期待している」と言っている。

アジア新時代と日本
 これから日本としてアセアンとどういう関係、協力が望ましいのかいう観点からみると、今、日本は少子高齢化を抱えているが、これから成長するアセアン諸国はまだ日本へのあこがれが強く、要するに未来志向で豊かなアジアをみるという視点からアジア新時代に日本がどうかかわるかが今後の重要なテーマになる。
 そこで、日本がアジアに提供できるものは科学技術、工業技術、インフラ整備、自然環境保護の知恵、衣食住に関するノウハウ、情報、。音楽、アニメ、デザイン、等サブカルチャー、伝統文化、芸術分野があげられる。逆に日本が提供してもらえるものは若い人材、労働力(平均年齢:日本44.8歳、カンボジア.フィリピン22.9歳)、経済的にみると投資先市場としての魅力、介護力等の高齢社会への対応(柔軟性が必要)、新しい発想、多様性の強さ(宗教、経済力)、活力、精神的豊かさ(表情が生き生きしている)があげられる。
 最後に、タイで2004年にインド洋大津波があった時、日本の学生、NPO,現地人が手助けをした事を忘れずに、東北大震災が起きた事に対しタイで募金運動が行われた。そういう意味で日本を友人として意識し、日本と東南アジアはどんどん協力して新しいアジアを作っていきたいと考えていますし、日本にはまだまだその可能性があるいう事今日の私のマトメとさせて頂きます。

《講師未見承》


平成24年2月 講演の舞台活花



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