6回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成20年11月20日
 
黄色い大地を緑に
~中国植林活動の現場から~

NPO法人「緑の地球ネットワーク」
事務局長
高見 邦雄氏

              講演要旨

緑の地球ネットワークが緑化協力をつづける山西省大同市は砂漠化と水不足が深刻である。 厳しい条件の下でも、双方の協力で少しずつ成果が上がってきた。 その中での経験を率直にお話ししたい。           


1.黄土高原の大同とはどういうところか

 北京とか上海とか、沿海の大都市のことは日本でもよく報道される。面積や住んでいる人はそれより多い内陸や農村となると、余り知られていない。今日はそのもう一つの中国へ案内したい。

 深刻化する中国の砂漠化

 左の映像は、人工衛星「ノア」が捕らえたデータに色を塗ったものだ。同じ緯度の日本の西北部にはまとまった森林のない砂漠が広がっている。(赤いところが砂漠)

 その黄土高原は52万平方キロに及び、日本の国土の1.4倍ある。大同市の面積14,000平方キロ、北京から300キロ西の農村である。

 雨が少ないうえに、降り方が乱暴。春に雨が少なく夏の一時期に集中する。植生が乏しいところに激しい雨が降ると土壌が流される。水もそこにとどまらない。
 私たちは1992年1月から、ここで緑化の協力を始めた。間もなく17年になる。これまでに、5,500ヘクタールの土地に、1,750万本の木を植えてきた。

  「山は近くにあるけれど煮炊きに使う柴はなし。十の年を重ねれば九年は旱で一年は大水」という民謡が地元にある。17回の春を私は向こうでむかえたが、本当にこれが実感である。

2.環境破壊と貧困の悪循環

 日本でも棚田はブームであるが、全然スケールが違う。どこまで行っても棚田である。

 「耕して天に至る」とういう言葉が中国にはあるが、決して誇張ではない。

 中国農民の奮闘の歴史は、自然の大破壊でもあった。





 増大する人口をまかなうためには、食糧増産が必要。耕地が拡大し、森林がなくなる。

 山には木がなく、丘陵や山の斜面まで耕されている。









 {雨のたびに、土が逃げ、水が逃げ、肥料が逃げるので、「三逃げの畑」と呼ばれる。







 雨季の夏になっても雨が降らず、乾燥に強いキビでも期待できない。



 左の字は、徳村彰さんという方がの創られた文字で、「森」と読ませる。

 木があるから雨から水と土が守られて育まれる。この黄土高原は、歴史的な原因によって木が失われてしまったので、そのために水と土が失われることになってしまった。

 そのようなところで木を植え育てるのがいかに大変なことか。環境というのは、一旦壊してしまったら、それを取り戻すのは実に大変なことなのである。だから壊してはならない。そのことをこの徳村さんは、一文字で私たちに見せてくださったと感謝している。


 農耕だけでは食べられないので、ヒツジ、ヤギなどを放牧することになる。草の根までかじられ、植生が一層貧しくなる

 植生が貧しくなると、土壌浸食が深刻化する。作物・植物が育たなくなる。結果、砂漠化が進む。






 黄土丘陵の貧しい村では、農耕はすべて人力に頼る。

 貧しい村ほど子どもが多く、人口が増加する。
 ⇒ 悪循環。

 悪循環の内部の人の努力は、往々にして悪循環を強くするだけ。




 黄河文明は、黄土高原文明である。今から1500年前、大同は北魏の都と呼ばれ、輝いていた時代が長く続いた。昔はここにも森林があった。

 そういうことからいうと、砂漠などに取り組む人の間では、こういう言い方をする。

 文明の前には森があり、文明の後には砂漠が残る―― というわけだ。

3.緑の地球ネットワークの緑化協力


 砂漠化を防ぐには、その原因を突き止め、それをなくすか、軽減するしかない。

 丘陵や山の上部に、グリーンベルトをつくり、土壌浸食を軽減する。

 小学校付属果樹園をつくり、そこからの収入で教育支援する。植えているのは主にアンズ。悪循環ではなく、少しずつではあるが、良性の循環をねらった欲張りプロジェクトである。


 私たちの協力拠点の環境林センター。200haあり、育苗と研修などにつかわれている。

 専門家の参加をえて、技術改善、人材育成など、ソフト面の協力をする。

 そのほかにもの拠点として、自然植物園、実験林場・果樹園などがある。





 これは私たちの顧問で、菌根菌(植物の根に寄生する微生物)研究の草分けの 小川眞さんが考案したもの。

 松の根っこに茸をくっつけることで生育を良くする。実験開始4か月でこれくらい差がついた。乾かして重さを計ると、右側は2倍になっている。







 「これはいい」ということで、翌春から200万本の育苗の態勢をとった。

 これを国とか行政がやろうとすると早くても何年かかかるが、私たちは9月に結果が出たら、翌年4月にはこういう態勢をとっていた。

 現場で見て、これがいいということになったら、全体の計画をスッとやり変えて、そのようにもっていく。身動き・フットワークが軽い。この腰の軽さがNGOなど民間の大きな強みだと思う。ただし、お金がない。

 これは日本からのボランティア・ツアーの人たちと、地元の子どもや村の人たちがマツを植えているところである。人よりも周囲の景色を見てほしい。全く木がない。

 効率と活着率をよくするため、前年の夏に3メートル間隔に溝を掘って整地しておく。そうすることによって夏に集中的に降る雨が斜面を流れず溝に溜まる。その水が地中で凍ってひと冬越し、雨の少ない春にマツの苗を植えることができる。


 
植栽後8年のモンゴリマツ。 混植の灌木は、ヤナギヤグミとムレスズメである。










 北向きの日陰斜面を中心に、自然の植生が再生しつつある。主役はナラ。







 樹木が大きくなるにつれ、落ち葉の量がふえ、土を肥やすことになる。

 毎年ボランティアツアーを派遣し、お互いに顔のみえる協力関係を強化。

 毎年250~350人。企業や労働組合からも積極的に参加してもらっている。


4.中国の環境と日本の今後

 環境に国境はない。中国の環境が悪化すれば日本列島も人が住めなくなる。

 日本の常識は世界の非常識である。日本ほど水に恵まれた国はない。
その日本が大量の水の固まりを輸入している。不自然なことは長くは続かない。
 日本も中国も、急速に高齢化が進んでいる。争ってはいけない。理解し合わねば・・・・・。



 11月29日 BS朝日で、宍戸 開 氏(宍戸錠氏子息)が現地紹介する番組が放映される。

 みなさん!ぜひ見てほしい!!







                    《講師未見承》



平成20年11月 講演の舞台活花

活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
過去5年間の舞台活花とその時の講演要旨を組み合わせた
「講演舞台活花写真画廊」のブログも
ご覧ください。


講演舞台写真画廊展
(↑をクリック)