平成15年度
熟年大学
第3回
一般教養公開講座

於:SAYAKA小ホール
平成15年7月17日


 【中国経済の50年】


講師
大阪市立大学経済学部 教授
佐々木 信彰 


中国は1949年の建国以来半世紀余りを経過して、今や「世界の工場」と言われるまでに実力をつけています。毛沢東時代の計画経済・閉鎖社会から、ケ小平、江沢民、胡錦濤の市場経済・開放経済へと中国はどのように変化してきているのでしょうか。

講演の大綱
AAA 光の中

私は「中国経済の50年」を毛沢東時代とケ小平時代」の二つの時代に画します。

BBB 毛沢東時代

   東西冷戦のもと、中国は、農業余剰-労働力-資源の総動員を可能ならしめるため、農業の社会主義集団化を強行しました。人民公社がその完成型です。 また工業その他の面でも公有化を進め、国営企業の比重を高めました。 農村から都市への人口移動は「戸口制度」により遮断され、農民は人民公社に、都市住民は国営企業を中心とする単位に閉じ込められました。このような制度構築の背後には、「資金の社会主義的原始蓄積」メカニズムが厳存していたのです。

CCC  ケ小平時代〜構造転換

現代中国は、社会・経済構造の大転換の過程にあります。この転換過程は、毛沢東時代の「重工業優先開発戦略」に則った生産重視の時代から、開放社会、市場経済、消費是認・主導の時代への転換と概括できましょう。

● 
市場経済の採用

毛沢東時代の計画経済では、中国経済の発展が達成できないことを歴史的に体験した中国は、計画経済の内部での改革を突き破り、斬進的ではありますが、1992年のケ小平による南巡講話で決定的となった大胆な市場経済の採用に入りました。

このケ小平の南巡講話を追認したのが江沢民の「社会主義市場経済」論であり、ここにおいて経済運営では、「
計画」から「市場」への転換に軍配があげられたのです。しかし計画経済から市場経済へは、まだその転換過程にあり、西側の資本主義市場経済と比較すると次のような変化が認められます。
  • 1.生産財の大部分と消費財のほぼ全てに対する政府の価格統制が終わり、配給制度による食料、衣料等の基本的消費財の分配も終わったことなど、価格の自由化の進展が相当進んでいること。

    2.行政の付属物的性格が強かった企業が、経営自主権を拡大していること。

    3.企業の育成が重視されるなか、企業が、かっての生活保障機能・社会保障機能をあわせ持った「単位」として変わりつつあること。
● さらなる開放体系へ

韓国・台湾などアジアNIESの経済発展と離陸をもたらしたのは、積極的な外資導入政策と輸出振興工業化政策であったと言われ、中国も30年の紆余曲折を経てこの道にたどりついたのです。

1979年以来経済特区の開設などの外資導入政策により、既に40万社もの外国企業が中国に進出しています。中国の国民経済に果たす外資の役割は極めて大きく、1999年には中国輸出の約半分、工業生産額の15%、税収の14%、固定資本形成の11%を外資系企業が担っており、この間、中国の貿易依存度は、閉鎖体系期の1桁台から、今や40%強までに増大しています。

●  消費革命

このような計画経済から市場経済への転換を突き動かした原動力とは何かと考えてみると、それは人々の文化的・物質的消費ニーズであると断定できます。 30年間に亘る毛沢東時代に起こした制度疲労の間に、日本や韓国・台湾などのアジア諸国との間に大きな遅れを生み出してしまいました。ここに至って、建国の党としての中国共産党による「統治の正当性」が問われかねない事態となり、消費を肯定し、経済成長、所得上昇を目指す方向に党と政府の経済政策が転換したのです。

郷鎮企業の大発展、私営企業、個体企業の認可、外資系企業の存在など所有制の多元化もこの転換に沿ったものです。

DDD 中国経済の強さと弱さ

改革・開放以来20余年、中国経済の躍進は眼を見張るものがあり、「世界の工場」「製造大国」と喧伝されています。 中国の代表的産業のいくつかの現状と実力の寸評を下記に示します。

1.農業の自給率⇒95〜103%
2.繊維産業⇒世界最大のアパレル大国
3.家電産業⇒世界最大の家電大国
4.自動車産業⇒「世界の残された最大の有力市場」

「製造大国」中国の強さの源泉は、中西部農村に滞留する過剰労働と外国から導入した技術・設備・資本を、東部沿海の経済特区・巨大都市で結合させたことです。 換言すれば、落差エネルギーを利用したタービン回転による経済発展です。 その結果として、大上海経済圏・大広州経済圏の有力な産業集積地が形成されました。

ここで大切なことは、このような
の反面、の部分が重く中国にのしかかっているのも事実です。 その最大たるものは、経済のダイナミックな市場化と政治の民主化の決定的な立ち遅れです。

他面、今の中国の
光と影は、ケ小平の先富論を体現した東部と大都市富裕層の裏側に、貧しい中西部内陸と貧窮農民を抱えている点です。 中国では、地域間また階層間の貧富格差が大きく拡大しているのです。

さらに、原油の純輸入国への転落に象徴されるように資源不足、さらに工業化に伴う環境問題の大きさも
の部分といえましょう。

EEE SARS騒動と中国の政治・経済

              省略
  
    


7月講演舞台活花