平成15度
熟年大学
第1回
一般教養公開講座

於:Sayaka小ホール
平成15年5月14日


 【第三の人生】

講師
花園大学学長
西村 惠信 


古人は、長く生きても「百年三万六千五百日」と言っていますが、人生の内容は日々の集積です。熟年者にとっては、これからの時間を如何に意義あらしめるかが最大の課題です。今迄と質の異なる人生、それをどのように生きるかについて考えたいと思います。



西村先生の講話は、
私達の周りにある身近な例を巧みな話術で引用されての
一時間半でした。

ここでは、
お話の要旨のみを採録します。

講演の大綱
                  

【Quality of Life、つまり質の人生、これが第三の人生の中味です。自分の人生の前を見ると言うことです。 沢庵和尚が死に際に書いた「百年三万六千五百日」の捉え方は、人生を限定ものの賞味期限として見ているわけです。人生は長ければ永いほど良いと言うものではありません。従って残りの人生を見つめ、一日一日を丁寧に生きることが人生を引き締める手でしょう。

時間とは、時計で測るものではありません。時計は空間に過ぎません。私達は過ぎ去った時間を考えがちですが、時間とは全ての存在の変化なのです。私達の存在は日々無常に変わりつつあります。 つまり私達の存在そのものが時間と言うわけです。目に鮮やかに見えないけれど、確実に変わって行きます。 その思いを切実に持つこと、これこそが、人生の充実にとって、とても大切なことです。

      

松本たかしの歌に「とっぷりと 後ろ暮れいし 焚き火かな」と言うのがありますが、明るい焚き火の灯りから、ふと空をみると、とっぷり暗くなっている。 つまり大きな自然の営みを忘れて、小さい焚き火の灯りに目を取られて、小さな世間に生きているのが私達の毎日でしょう。 そのため死に直面すると「何のための人生だったのか」と慌てふためくことになります。

換言すれば、時間というものは、量的なものでなく、もう後どれだけあるかと言うように切実な気持ちを抱いてこそ、本当の時間というものではないでしょうか。 人生も同じです。 加齢をして量的に深まっていくのが人生だと考えがちですが、よく見ると人生には必ず終わりがあるわけですから、残りがどんどん減って行くというのが人生の正しい捉え方でしょう。

このように人生の見方を変えると、自分の暮らし方も、人様とのお付き合いも、うんと変わってきます。 自分の小ささ、弱さ、残された余生の短さへと視点を移す事で、逆に天地の恵みとか、大いなるものによって活かされているという方向へ視点が変わってきます。 「俺がいなけりゃどうなるんだ」というような、自己中心的な視野で世界を見て、それでも不足イッパイ生きていた人でも、自分が衰えたり、人生の限界を知ると、自分を活かしてくれていた大きな恵みに気が付くもののようです。 

              

今は亡き評論家の亀井勝一郎氏が「人生-邂逅し、開眼し、瞑目す」ということを書いていました。

邂逅とは出会いのこと。 本当の私とは、生まれてから死ぬまで囲りの世界との出会いによって出来ていくもの。 道元禅師が真実の私として詠われた「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪さえて 冷しかりけり」のように、人間(私)とはこのような回りの世界を内容として始めて存在するのです。

開眼とは、人間になることです。
鏡をもつこと、反省能力を持つこと、それが人間の尊さです。
釈迦の言う、【生老病死】の絶望的な存在を持つ人間でも、尊いのは、その苦しみを知っている知恵を持っているからです。 
明日は死ぬ、景色も見えず、蝉の声」とあるように死を知っているのは人間だけのようです。

瞑目すとは、目をつむることによって、目に見えぬ世界に気付くことです。
この頃の日本人は、神仏のように目に見えないものを見失ってしまったようです。 信じると言うことは、目に見えないものと深いかかわりを持つことです。真心という目に見えないものも、もう我々には見えなくなっています。なぜこうなったかと言うと、それは目をつむらなくなったからでしょう。

人生すべからく、余裕をもって綺麗に片付けをして終わりたいものです。 その仕事の為に残されたのが、第三の人生と呼ばれる質の高い歳月でしょう。 今まで、膨らめばよい、金が溜まればよいというようにただ量的なものを求めてきたのですが、自分というものの先が見えたこの年頃から、そろそろ、毎日をいかに生きるかの質を考えることが大切です。

「人の生を受くるは難し、死すべきものの命あるは有り難し」(法句経)ということを知ることです。破れかぶれのまま終わらないよう、残された人生をお互いに大事にする。 そして、人間の尊さに目覚め、自分の生活も他人の生活も大切にしてまいりましょう。 

                  
       白井代表並びに吉田新市長の開講挨拶(省略)


5月講演舞台活花